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定食屋を出ると少年は再び歩き出す。
N県に入り、しばらく歩くと町並みは一変し都市部に入った。
一定間隔にコンビニがあり、有名なファミレスやファストフード店が並んでいる。
馴染みのある景色だ。
少年は歩く。
元々白かったスニーカーの紐は、茶色く淀んだ色をしている。
何度か交差点を渡るお年寄りの手助けをした。
都市部は、田舎より信号機が変わるのが早い様に感じる。
道端にゴミが落ちていたら可能な限り拾い、公共のゴミ箱を道すがら探し捨てる。
これは、罪滅ぼし。
少しでも善行を行い、自分の罪を清算したい。
そう。
この旅には【行き先】は無いが【目的】はある。
更に進んで行く。
辺りは、既に暗くなり歩く人も段々と少なくなってきた様に感じる。
ぐぅ~。
腹の虫が鳴った。
「お昼にあんなに食べたのに・・・なんでもう、お腹が空くんだよ。」
「あんなに、良くしてもらったのに。」
定食屋のおじぃさんとおばぁさんを思い出すと余計に自分の食欲に怒りが湧いてきた。
しかし、もうお金も残っていない。
そんな時。
たまたま近くのコンビニが目に入った。
店員さんが大きなポリ袋にお弁当を乱雑に入れ、外の物置に投げ込もうしていた。
「きっと捨てるお弁当だ。」
店員さんは、ポリ袋を物置に投げ込むと店内に小走りで戻って行った。
僕は、隠れる様にして物置に向かって走る。
「鍵が付いて無い」
引き戸に軽く手を掛ける。
ガラガラ。
「開くぞ」
しかし、少年は動きを止める。
(これはイケない事なんじゃないか?)
(いや、でも捨てられたモノだし)
(どうせ、ゴミとして捨てられるのであれば、、)
こんなチャンスもう無いかもしれない。
「本当にごめんなさい。捨てるのであれば少し分けてください。」
少年は、何度も物置に向い頭を下げると再び引き戸に手を掛けた。
その時。
「オイッ。お前何やってるんだ!」
ビクッ。
まるで、背中に氷でも入れた様に跳ねる。
「え、あ、ご、ごめんなさいっ。」
(きっとさっきの店員さんが戻ってきたんだ。)
咄嗟に謝り後ろを振り返る。
するとそこには店員さんではなく、自分よりもみすぼらしい格好をしたオジサンが立っていた。
服はボロボロ。
髪は白髪交じりで、肩くらいまで伸びている。
ヒゲもきっとオシャレで伸ばしている訳では無いだろう。
「お前、弁当を盗もうとしたな」
「あっ、いや、あの・・・」
「このコンビニは、俺たちの縄張りだ。」
縄張り?
「どけっ。」と一言放つと、慣れた動きで物置から廃棄弁当の入ったポリ袋だけを引っ張り出した。
(やばい。お弁当が取られる。次いつこんなチャンスがあるか分からないのに、、、)
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ポリ袋を持ったオジサンがチラりと少年を振り返る。
すかさず少年は言う。
「一つで良いから分けてくださいっ!」
「やらん。なんでお前みたいなガキにあげなきゃいけないんだ。」
取り付く島もない。
「ぼ、僕が先に見つけたんだぞ!」
「ここは、昔から俺たちの縄張りだ。お前さんなんか知らん。」
オジサンは黙ってこちらを睨みつけるとまた歩き出した。
「くっ。」
「こ、このっ。意地汚いホームレスっ!汚いんだよっ!」
これはもうただの捨てゼリフだった。
一瞬、ピクッとオジサンの動きが止まったように見えたがそのままどこかに消えて行ってしまった。
「くそぉ。」
その日は、近くの公園で一夜を過ごした。
大きいタコの遊具の中は、意外と外の音を遮断してくてなんだか居心地が良かった。
不思議と空腹感が無くすぐに眠りについた。
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