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目が覚めると雨が降っていた。
いつから降っていたのだろう。
既に、公園にはいくつか水溜りが出来ていた。
「雨が止むまでここで待とう。」
少年はひどく後悔していた。
昨日、オジサンに向けた自分の言葉に。
『この意地汚いホームレスっ!汚いんだよっ!』
何もあんなひどい言葉を使う必要は無かったんじゃないかと。
彼らの生活圏内に侵入したのは僕の方なのに、、。
雨が弱まり雲の隙間からはところどころ朝日が差し込んでいる。
少年は、空腹を誤魔化すため水を飲もうと公園の水道まで向かう。水溜りを避ける様に進み、蛇口を捻ると水を飲んだ。
その時、朝日が少年を強く照らした。
急に強くなった陽射しが眩しくなり顔を地面に向ける。
「ぁう。」
変な声を出してしまった。
そこには、水溜りに映る自分の姿があった。
ボサボサの髪。
ボロボロな服。
汚れた顔。
「なんだよ。」
「僕の方が汚いじゃないか。」
バシャッ。
少年は、水溜りを思いっきり踏みつける。
タコの遊具に戻ると、しばらくの間うずくまっていた。
「あのオジサンに謝ろう。」
少年にはそれしか思いつかなかった。
遊具の中で時間が経過するのをひたすら待つ。
小雨の音だけが遊具の中で反響していた。
いつの間にか少年は眠りに落ちる。
目が覚めた時には雨は止んでいた。既に夕方過ぎだろう、空は温かみのある色をしている。
ぐぅ~。
お腹が鳴る。
「そういえば、昨日から何も食べてなかった」
不思議と空腹感はあまり無い。
「早くあの人に、謝らないと」
少年は、リュックを背負うと昨日のコンビニに向けて歩き出した。
コンビニに着いてからは、じっとその時を待った。
昨日と同じようにお弁当の廃棄は行われるのか、オジサンはまた現れるのか、実際出会えたとしてなんと言おうか。
そんな事をひたすらに考えていたら、あっという間に時間は過ぎていった。
既に辺りは暗くなり、人通りもほとんど無い。
コンビニの明かりだけが辺りを照らしている。
もう地球上に、この場所以外存在していないような不思議な光景に目を奪われていた。
自動ドアが開いた。
「来た。」
店員が、昨日と同じ様にポリ袋片手に出てくると物置にソレを投げ込んだ。
オジサンが今日も来るなんて保証は無い。
しかし、少年は黙ってその時を待った。
「あっ。」
誰かが物置に近付いて行くのが見えたが暗くて良く見えない。
少年は目を凝らした。
「オジサンだ。」
すぐに駆け出す。
「す、すみませんっ!」
既に弁当の入ったポリ袋を担いで歩き出していたオジサンは振り返る。
「ん?」
「あの、、、オジサン。」
「なんだ。昨日の汚ねぇガキじゃねぇか。何度来てもお前の分なんか無いぞ。」
「い、いや。違うんです。」
「だからお前分なんか無いんだよ。子供は早くお家に帰んな」
「だ、だから違うんですっ!」
語気を強めた少年の言葉に、オジサンは立ち止まる。
「じゃあ。なんの用だ?」
「・・・・」
あんなに考えていたバズなのに、言葉が出てこない。
「用が無いなら、俺は行くぞ」
オジサンは踵を返す。
「き、昨日は!」
「昨日は、ひどい事言ってすみませんでした!本当にごめんなさい。」
オジサンは、再び足を止める。
「まさか、それだけか?そのためだけにお前。ずっとそこで待ってたのか?」
・・見られていた?
「はい。どうしても謝りたくて。本当にすみませんでした。・・・それでは失礼します。」
少年は、振り返るとコンビニを後にする。
後ろからオジサンの小さいため息が聞こえたように感じた。
「おい、ボウズッ。」
声に振り返ると、オジサンが何かをこちらに投げた。
「おわっ。」と、なんとかキャッチする。
「箸は自分で用意しろよ」と告げると、またどこかに向い歩きだしていた。
少年の手元には、唐揚げ弁当が一つ投げ込まれていた。
「あっ。・・」
まだ薄っすら見える後ろ姿に、少年は深く頭を下げた。
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