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「ちょっと出かけてくる」
真緒はそう言って出かけ、次の日帰ってきた。私たちはテレビで紹介された肉まんを見て『美味しそうだね』『美味しい肉まんが食べたくなった』と言い合った後、友人は出かけた。コンビニで買ってくるのかなと待っていた当時の私は彼女の癖を知らず、夜中になっても寮に戻ってこない友人を心配したものだ。
女子寮で同室となり、気が合った真緒は美しく、だれとでも分け隔てなく接しており、魅力に溢れていた。が、一つだけ欠点がある。行き先も目的も言わず『ちょっと出かけてくる』の一言だけで残して、どこかに放浪する癖があるのだ。
「放浪じゃない。放浪っていうのは何の当ても目的もなくぶらぶらすることだけど、私はちゃんと目的を持って出歩いてる」
放浪癖を指摘すると唇を尖らせた。
「じゃあ目的を伝えてから出かけてくれないかな」
「言ったらその通りに動かないと行けなくなるでしょ。肉まん食べに行くって言って出かけて、向こうで炒飯が食べたくなるかも知らないじゃん。イタリアンとか食べて帰ってきたら文句言われるでしょ」
「まぁ多少は言うかもしれないけど」
ほらぁとソファにもたれた彼女に苛立ち、私は腰に手を当てて見下ろす。
「じゃあせめて何処に行くとかでも」
「行ってる間に違う場所に着くかも」
たとえどれほど真緒が否定しようとも、私は彼女に放浪癖があると思っている。肉まんを食べに中国まで行った後にも、何度も彼女は1人で出かけて、暫くしたら戻ってきた。毎度寮には外泊届けを出していたため、私以外には怒られていない。
「じゃあ出かけてくる」
目的も場所も言わず出かける癖は高校を卒業してからも続いている。むしろ大学になって酷くなった。難関大学に合格し、一人暮らしを始めた彼女は何度も家を変えた。
『そこの子、引っ越したわよ』
『えっ!』
訪ねた先でチャイムを鳴らして、初対面の女性からやっと引っ越しの事実を知らされた経験を何度も経て、私は真緒の家を訪ねる前に居住地の確認を行う習慣がついている。
『まだ引っ越してないよね?』
『引っ越した。言うの忘れてたわ、ごめん』
今日も事後報告を受け、私はため息を吐いた。
『サークル旅行のお土産持って行く』
『ありがとう!』
クマがハートを散らしているスタンプが届いた。
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