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「ありがとう。何回も引越祝いくれて」
「……つまらない物ですけど」
「いえいえ、有難いです」
きび団子を嬉しそうに覗いている真緒を見つめた。数分前まで言い争っていたとは思えない穏やかさだ。
「あ、私もお土産あるよ」
思い立ったように立ち上がり、彼女はキッチンに向かった。
「はい」
『健康第一』と太字で印字されたしゃもじが目の前に現れた。
「宮島」
「うん。本場の広島焼きを食べたくなって。ついでに厳島神社も行ってきた」
「健康……」
「健康は大事でしょ?」
真緒はコテンと首を傾げている。修学旅行土産みたいで、嬉しさ反面言いようのない複雑さを感じた。否、言いようはある。『出来ればもみじ饅頭が良かった』以上。
「もみじ饅頭にしようかと思ったけど、いつ会えるか分からなかったから」
「真緒って読心術あったっけ?」
「いや、そんな顔してた」
私は撫でて、頬の筋肉を柔らげた。
「いつでも会えるでしょ。会いにきたらいいじゃん」
「えぇ、引っ越したり、予定が入ったりで会えないかもしれないでしょ」
「真緒じゃないんだから」
「ごめん」
「え?」
「え?」
私は首を振った。ふらふらしているのを謝られたのは初めてだ。いつも指摘しても『うん』『あーはい』みたいな適当な返事がきていた。初めてなことに驚いて、私も動揺したのだろう。唇が勝手に言葉を発した。
「じゃあさ、一緒に暮らす?」
「うん」
「ほら寮にいた時はさ、大体互いの予定分かってたし、示し合わさなくても会えてたし。真緒が引っ越してもすぐ分かるじゃん、ってえ?」
「うん、一緒に暮らしたい」
自身の思わぬ発言を誤魔化すようにペラペラと理由を並べていると、真緒は真っ直ぐな目で頷いた。
「え、ほんとに?」
「うん。駄目なの?」
「いいよ。オールオッケーだよ」
「じゃあ家決めようよ」
真緒が引っ越したばかりの家で、私たちは新しい家を探した。
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