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『じゃあちょっと行ってくる』
『いってらっしゃい』
『お土産買ってきた』
『おかえり』
『ちょっと北の方に行ってくる』
『はいはい、いってらっしゃい』
『こっちはあったかいね』
『おかえり。ご飯食べる?』
『ちょっと水族館巡りしてくる』
『いってらっしゃい。らっこのぬいぐるみが欲しいな』
『らっこさんのお帰りだよ』
『おかえり。可愛い』
『ちょっとご飯食べ比べしてくる』
『いってらっしゃい。ついでにお米買ってきて』
『これでいい?』
『もちろん、おかえり』
『ちょっと奈良の大仏に行ってくる』
『いってらっしゃい。鹿せんべい渡してあげてね』
『ただいま。奈良漬買ってきた』
『……っおかえり!』
悩んだ末に選んだシェアルームに引っ越した後も、真緒はふらふらと出かけていた。毎回のお土産を楽しみに思えるほど、私は彼女の放浪癖に慣れていた。
「きれい」
その日は真緒は家にいて、一緒にテレビを見ていた。『美しすぎる日の出特集』に私は何度も感嘆のため息をこぼしている。
「あー、これもきれい」
暗闇から陽の光が見えるのも、澄み切った青空をオレンジ色に照らすのも美しい。緯度や季節によって日の出の色合いも異なるらしい。
「いいね、日の出。早起き苦手だけど」
あははと笑って真緒に話しかけると、彼女はパンッと手を叩いて、振り返った。
「そうだ、山へ行こう」
「やま?」
「日の出見にいこうよ、一緒に」
「一緒に?」
「うん」
困惑する私に彼女は頷いた。一緒に……と思うだけで口元がにやけ出した。今の私は変な顔をしているはずだ。
「行く!」
「よし、じゃあ準備しよう」
「え、もう?」
「もちろん。思い立ったが吉日よ」
促されるままに山登りをする準備をした。早起きは苦手だが、真緒と一緒に日の出を見られるならいくらでも早く起きてみせる。
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