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「その先に踏み出せば、楽になれると考えているなら、一度考えを改めることをおすすめします。高さ七十二尺、落下地点は固い岩肌。四割三分の確率で打ち付けられた体はぐちゃぐちゃになるでしょう。即死出来ればまだいいですが、運悪く死に切れなかった時は悲惨ですよ。生涯、不自由を背負って生きる可能性が三割一分。寝たきりとなり、家族のお荷物となる可能性が一割五分。残りの一割一分が……」
「何なんですか、あなたは」
わたしは叫んでいた。唐突に現れたかと思えば、人の気も知らずに流暢に講釈を始める無神経さに苛立った。
彼女はこちらの心情など気にもとめないかのように笑うと、背負っていた箱を地面に下ろした。
「わたしは通りすがりの薬売り」
そう言うと、彼女は傍らに置いていた木の箱を開けて、何かを取り出した。
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