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何となく興味が沸いて、わたしは右端のピンク色の錠剤に目をやった。
「桃色の丸薬は、幸福丸。服用すれば、あらゆる幸せに気づくことが出来るでしょう」
その隣には、湯呑みに入った飲み薬が湯気を立てている。
「薄水色の煎じ薬は、心海湯。服用すれば、心が晴れやかに澄み渡ります」
左端には和紙の上に盛られた黄色い粉薬が置いてある。
「琥珀色の粉薬は、命流散。服用すれば、悪い気を払い、幸運を手繰り寄せることが出来るでしょう」
彼女はわたしの目を見て、じっと待っている。選べと言っているのだろうか。
「どれか選べばいいの?」
「はい、本日はお試しでおひとつ差し上げますよ。お代を頂ければおいくつでもお売りしますが」
何だか知らないが、死ぬ気でここにやってきたのに、まるでおとぎ話のような薬を試せと言う。すっかり馬鹿馬鹿しくなってしまい、わたしはなんとなくピンクの錠剤を指差した。
「幸運丸でよろしいですね?」
飲んだだけで幸せに気づけるなどと言っているが、危ない薬だろうか。
丸い錠剤を手に取ると、彼女は水の入ったひょうたんを渡してくる。元々終わりにしようと思っていた人生。もし、これが毒薬で、この場で死んだとしても、一向に構わない。
わたしは錠剤を口に入れ、ひょうたんの水を飲み干した。
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