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「満島!」
わたしは名前を呼ばれて我に返った。そこはいつもの会社の自席。慌てて壁の時計を確認すると、十三時五分を指している。昼休み中に眠りすぎて、就業時間に入ってしまっていたらしい。
「頼むから、やる気を出してくれよ」
「……すみません」
わたしを叱るのは、上司の花川係長。仕事はそれほど出来ないのに、態度だけは部長級だ。そして、この男は自分のミスを人のせいにする。
元々わたしは課内でも目立たない存在で、意見を言えるようなタイプではない。それをいいことに、わたしを卑下し、自分を高めようという浅ましい思考の持ち主なのだ。
寝過ごしてしまったのはわたしが悪いが、みんなの前で罵倒する必要はないだろう。こういう人間が上に立つと、使われる側は不幸になるのだ。
端末のロック画面を解除すると、始末書のテンプレートが目に飛び込む。
ふと、死のうと思っていたことを思い出す。実際にそういう名所として有名な崖まで出掛けたはずではなかったか。その後どうやって帰ってきたのか、記憶がない。
でも、死ぬぐらいだったら、もう少しやれることがあるのではないか。人間、死ぬ気になれば、とよく言う。つまり、今のわたしならなんだって出来るはず。そう考えただけで、わたしは何だか気が楽になった。
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