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これで人生は終りだ。面倒事は部下に押し付け、上に媚びへつらうことでどうにか出世コースにしがみついていたというのに。たった一つのほころびから、隠していたもの全てを芋づる式に持っていかれた。
考えてみれば、余裕がない人生だった。そもそも俺などに、器用に立ち回る技量などなかったのだ。
部下を舐めてかかったことがすべての過ち。もう、ここは潔く消えてしまった方がいい。
電車が近づく音を聞きながら大きく深呼吸をしたとき、不意に肩を叩かれて、俺はぎょっとした。振り返ると、そこには作務衣姿の女がいて、にこやかにこちらを見上げていた。
「電車に轢かれると、後が大変なんですよね。遺体はバラバラになるし、車体も汚れるし。ちなみに清掃にかかる費用は……」
「なんだ、あんたは」
「わたしは通りすがりの薬売り」
場違いな雰囲気を持つその女は、背負っていた木箱を下ろしながら答えた。
「おすすめのおくすり、試してみませんか」
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