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「おはよう!」
「あぁ、おはよう」
テスト当日――。
学校を目指して歩いていると、朝から近澤が話し掛けてきた。「いつものように元気だな」と思う心を押し殺す。そして、何故かわからないが彼女の顔を見たくないと思ってしまう。自然と顔を合わせないように背けてしまう。
「どうしたの?なんか冷たい気がする」
「はぁ?気のせいだろ。普通だよ」
近澤は頬を風船のように少し膨らませると、諦めたのか、軽く肩を落としてそれからしばらくは何も言わなかった。
「今日テストだから?」
「テストだな……。憂鬱だよ」
近澤の言葉に対して、それ以上返す気にならなかった。テストと考えるといつもなら憂鬱なものだが、内心では「今日は余裕」という気分だった。
「まじか……」
そして迎えるテスト時間。チャイムとともに問題用紙を表面にすれば広がる文字の世界。
だが、不思議と手が止まることなく進んだ。次から次と現れる問題に対して、「待ってました」というように答えが浮かんでくる。
『これが……万能薬……』
薬祖神に感謝をしてしまった。
テストの結果は満点という結果で、先生だけではなく周りの人間からにも「どうした!?」と驚かれた。
周りから驚かれたり、褒められたりすることは悪い気はしなかった。むしろ楽しいと感じてしまう程で、こんな気持ちになったことは今までにない。
「色々使ってみるか」
一度踏み出してしまえば怖くなくなるというのはありがちなことだが、俺はまさにそれになっている。
使ってみて、特に副作用に悩まされることがなかったこともあり、俺はそれから万能薬を使うようになった。
時間が止まる薬――。
授業中に寝てても許される薬――。
自分の思い通りになるように、様々な効果を使った。
「なんか……さ」
だが、それから1ヶ月ほど経った時の事だった。
放課後に近澤が話し掛けてきた。
「最近、朝と放課後で別人みたいだよ」
「どういうこと?」
「――そのまんまの意味」
最初は、その言葉の意味なんてわからなかった。自分では変わらないつもりでも、朝の様子と放課後は「まるで別人だ」と言われてしまった。
だが、それはある事を意味していた。
「最近、薬が夕方まで続かなくなったなぁ」
そう、効果時間だ。
初めは朝飲んでから登校すると、下校するまで薬の効果は持続している感覚があった。しかし、最近はお昼過ぎになれば、どのような効果でも切れてしまうようになっていた。
「2つずつ飲んでみようかな」
考えられるのは、身体が薬に対して耐性を持ち始めた可能性がある。飲めば飲むほど効き目が少なくなって来ている。
「おぉ、効いてる感じがする」
万能薬の虜になった俺は暴走し始めていたのだろう。2粒一気に飲んでみたりすると、確かに効き目は放課後まで続くようになった。
これならいけると考えてしまった結果、事態は最悪な方へと進んでしまう……。
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