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「なんか……、面倒くさい」
思い通りな世界というのに飽きてきたからなのか、誰かに会うということが面倒に感じてきた。話し掛けられる事も、顔を見ることも……。
ここ最近は、学校に行くことを苦に思っていなかったが、今日は違った。
「イライラするな」
数日後には、人の顔を見るだけでむかつくようになっていた。近澤だけじゃない。友達も先生もみんなみんな、居なくなってしまえばいいのに。
「また、朝から退屈そうな顔をしているね」
なんだ?悪いのか?ほっといてくれ。話し掛けるな。
際限無く怒りが湧いて、相手の名前すらも思い出せない。いや、思い出したくないと身体が言っているようにも感じた。
邪魔だ。みんなみんな邪魔だ。
「なっ………」
次の日の教室には、思わぬ光景が広がっていた。クラス全員の目が赤く光り、鋭い眼光でこちらを見ている。まるでみんな"獣"だ。笑った口からは鋭い牙を生やして、今にも襲い掛かってきそうな感じがする。
「悪い夢だな」
最初は夢だと思った。でもその夢はいつまでも覚めることはなく、ずっとずっと3日間も続いた。
授業?人を殺そうとするような獣の目をして黒板の前で何を語る?何を叫んでいる?
邪魔だと思われたことがそんなに嫌だったのか?知ったことか。どっか行け、獣共――。
「……………」
怖い。
人間が怖い。クラスだけじゃない。道行く人達、この世の全ての人間に対して恐怖を覚えた。
次第に手足は震えて、教室には居られなくなっていた。万能薬?思い通りになる世界?そんな事はもうどうでも良かった。
とにかく怖い。人が……嫌いだ……。
「…………やめだ」
次の日からは、もう薬なんてどうでも良かった。
飲んだって効いてる気がしないし、人が嫌で嫌で仕方が無い。
だから、飲まずに登校した。
「はぁ……はぁ……」
それは、お昼過ぎの事だった。
椅子に座っているだけなのに、激しい運動をした後かのように呼吸が荒くなった。
先生が話していることがわからない。わかりたくない。何故なら、単語1つ1つが頭の中で反響するように聞こえているからだ。
鬱陶しい。黙ってくれ。
『みや……り、ぐあいでも、わるい、のか?』
「保健室、行ってきます」
うるさくて、多くの視線が刺さるようで嫌だ。
保健室へ行って落ち着こうと立ち上がれば、今度は頭痛と目眩が襲ってきた。
『お前、1人で大丈夫か?』
「大丈夫です」
壁に手を付けながら教室を出る。
保健室の場所は当然わかっている。わからないのは今の自分がどうなっているのかということ。
廊下に出ててから、保健室を目指して歩き始めるまでしばらく時間が必要だった。
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