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「バク、大丈夫だった?」
町の灯りが遠ざかるのを目にし、シオが問いかける。
「平気です。痛くもかゆくもありません」
バクは平気な声で言った。実際にシオが見ても、バクの身体には傷一つ見当たらない。
「このまま、遠くの駅まで行きましょう。そこから列車に乗れば、もっと遠い場所まで辿り着けます」
「バク、あなたってすごいわね。こんなに大きくなって空も飛べるだなんて」
「光栄です。サツキさま」
サツキの台詞に、バクは嬉しそうに返事をした。
二人の足の下には、見たこともない広々とした草原が月の光に浮かんでいる。森があり、川が流れ、やがてどこまでも続く線路が見えてくる。美しい景色に二人はしばし見とれた。
「綺麗ね」
やがてサツキが言い、シオも頷いた。
「ぼく、この景色を描くよ。いつになるかわからないけど、描いてみたい」
サツキが振り返り、弾むような笑顔を見せた。
「その時は、私にも見せてね」
「うん。一番に見せるよ。あと、バクもね」
シオが毛皮を撫でる。バクは少し黙った後、おずおずと言った。
「その時、私もおそばにいてよろしいのでしょうか。私は伝説の生き物です。お二人にご迷惑がかからないでしょうか」
顔を見合わせ、サツキとシオは笑った。
「あなたがいないと、きっと退屈だわ」
「そうだよ。これからも、一緒にいてほしい。ぼくらの夢なら、いくらでも食べさせてあげるから」
「嬉しいです!」
バクはそう言って長い鼻を高々と掲げた。楽しそうに、夜をどこまでも流れるように飛んでいった。
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