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 数日後、町に買い物に出たシオは、パン屋の主人が教えてくれた話に驚いた。 「商売人としちゃあ、許せないね」  憤慨しながら語ったのは、とある悪事についてだった。遠い国から取り寄せたと言って高値で売りつけていた果物が、実は二つ隣の街で収穫された安ものだったのだ。その果物屋は、まさにバクが夢を食べた店だった。  帰りに通りかかったが、細道にある店は固く扉を閉ざしていて、中に人の居る気配はなかった。 「ねえバク、きみの力はすごいね」  街はずれの家に歩きながら呟くと、ポケットから小さくなったバクが顔を出した。ふわふわ浮き上がり、シオの肩にちょこんと乗る。 「光栄です」 「その人は、どんな夢を見ていたんだろう」 「悪い夢ではありませんでした。むしろ、その人にとって充実したものだったのですが……私には、とても」  味を思い出したのか、ぺろりと舌を出す。その顔に思わずシオは笑ってしまう。 「バクの前では、悪い人になれないね」 「シオさまは、とても良い人です。この街で一番です」 「ほめ過ぎだよ」 「いいえ。シオさまの夢は誰より美味しいものでした」  味を思い出し、バクはつぶらな瞳を細めて幸せそうな顔をした。シオは幾度かバクに夢を食べさせていたが、バクの言った通り、その時に見た夢は全く覚えていない。 「……じゃあ、今夜はぼくの夢を食べるかい」  シオが提案すると、バクは短い尻尾を犬のように振り、「ぜひ!」と頷いた。
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