ニャンコの行進曲

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ここ漁師町はまだ 猫の外飼いが当たり前である。 なので、当然のことながら ある時間になると猫集会が開催される。 虎次と呼ばれるトラ猫が 肩を落としてため息をついている。 にゃ・・ いつも鬱陶しいほどに 元気が爆発している虎次なだけに みんなも心配になる。 年上の特に仲良しのハチワレのハチが スッと虎次に近寄り鼻キッスをスマートにすると 翠色のガラス玉のような瞳で見つめた。 虎次もまた 琥珀色の綺麗に透き通った瞳で見つめ返すと きゅっと目尻を上げて目を閉じた。 にゃにゃ? ハチが声をかけると 虎次は(せき)を切ったように話だした。 にゃー、にゃー、にゃーーー どうやら、虎次の飼い主のじさまが 倒れて病院に運ばれて行ったらしい。 猫界隈では 病院に飼い主が運ばれる事は 別れを意味すると認識されていた。 ハチの飼い主も 病院を最後に会えなくなってしまった。 そうでない事もあるが そうである事がある以上 猫としては別れの覚悟が必要なのだ。 虎次は再びため息をついた。 ない肩が余計溶けて無くなっていくようだ。 お行儀よく座って キチンと揃えられた前足が哀愁を誘う。 ひげが地面に向かってうなだれているせいか 絵に描いた様にしょんぼりしている。 仲間たちもつられてため息が出る。 普段は食べる事しか考えてない オレンジ色の長毛種、みかんもなんだか 食べ物どころじゃない気持ちで ふわふわの毛を少し逆立てた。 と、口髭を蓄えているかのような模様のヒゲさんが 四肢を地面に押し付けて 背中を弓なりにくわっと伸び上がると にゃーーーーーー とないた。 仲間たちに戦慄が走る。 そう! 病院に行こう! 4匹は、尻尾が上がってやる気満々 ヒゲさんを先頭に一列に並んでリズミカルに歩き出した。 人口まばらな漁師町なだけに 平屋のそう大きくもない病院に向かって 小気味良く小さな猫たちが通り過ぎてゆく。 一曲歌い終わる頃には 病院の待合室から少し離れた 静かな入院病棟の渡り廊下に到着していた。 ここに虎次のじさまはいる。 と、病院で飼われている 白猫の小雪が顔を出した。 小雪はハチの彼女だ。 2匹は頬と頬を擦り合わせてすれ違う お互いの脇腹をすり合わせながら 体と体が頭から尻尾へ抜け切る最後に ハチと小雪は互いの長い尻尾をクイっと持ち上げて 反らすように弧を描くと尻尾の先をチョンとくっつけて 立ち止まった。 そのポーズは一枚の絵のようで ハチと小雪の繋がった尻尾の向こう側が ハート型にくり抜かれているように見える。 虎次はいつもこの挨拶に憧れていた。 にゃわーー 思わず憧れが声に出る。 そんな虎次を気にする事もなく 2匹はヒソヒソ顔を近づけて話をしている。 どうやら虎次のじさまの部屋がわかったらしい。 でも、それは猫が入れない部屋だった。 どうする? う・・・・・にゃ。 虎次の琥珀色の瞳がきゅっと隠れて 目が横一本の線の様に細くなった。 その顔を見て みんなは覚悟を決めた。
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