ニャンコの行進曲

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まずは第一関門だ。 特別病棟の扉を開けなくてはならない。 開け方は聞いていた。 あのボタンを押せばいい。 人間の胸の高さらへんまである開閉ボタンを見上げる。 にゃっ! ヒゲさんが鋭くなくと みんなキリッと視線を合わせた。 ハチと虎次とみかんは横一列に並んで 扉に向かって前足を揃えるとお尻を突き上げた。 軽くお尻をフリフリして 準備オッケーの合図を送ると ヒゲさんが缶バッチのようなボタン目掛けて シュパッとジャンプしたやいなや 両手で器用にぽちっとボタンを押す。 自動でドアがスライドした。 3匹は獲物を捕獲する時のように 腰をぐっと落として素早く扉の向こうへ滑り込んだ。 侵入に成功した3匹の前方奥に じさまの寝ているベッドが見える。 思わずはしゃぐ虎次から声が漏れた。 「今、猫の声しなかった?」 看護師の足が数本、立ち止まり方向を変えている。 焦った3匹だったが 今度はみかんが『いけ』と合図する。 『ここは僕に任せろ』と。 ふわふわの毛をもふっと膨らませて 下準備をしながらウィンクした。 ハチと虎次は目を合わせると 音を立てずに走っていった。 走り去る2匹のお尻が小さくなるのを確認すると みかんは瞳孔をまんまるに開いて 看護師の元へゆるゆると近づき唐突に どでんっと横っ腹から倒れた。 看護師たちは 「なに?なに?」 「やだ!」 「かわいいっ!」 と、しゃがみ込み まんまともふもふの恩恵にあずかっている。 その隙に ハチと虎次は奥のベッドに向かって走っていった。 大好きなじさまの匂いと気配で 虎次のワクワクは止まらない。 どんどん速く走る。 と、その時 網を持った警備員が追いかけてきた。 先に気づいたハチが なーーーーーーーーーーーっ!! と、長くなくと警備員を煽る。 異変に気づいて硬直する虎次に 止まるな!いけ!!と 長い尻尾を煙のようにくゆらせ合図を送る。 その瞬間、意を決した虎次は力一杯走り出す! そのまま、真っ直ぐ! じさまのベッドはもうそこだっ!! 虎次は走る! そのまま真っ直ぐ突進して! じさまのベッドに向かって! 一瞬、体を低く鎮めて! その反動で、空中に弧を描くと・・ 大きくダイブっっ!!! どすん!! なんや!! じさまが驚いているのもお構いなく 虎次はじさまの顔に体を擦りつけた。 おいおい なんだなんだ にゃ♪ にゃ♪ 高く短い甘えた声に 虎次か! ここまできたのか!? 大好きなゴツゴツした大きな手が 小さな虎次の顔をすっぽり包む。 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ・・ じさま♪ ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ・・ 虎次や ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ・・ 言葉は違えど 虎次とじさまは会話を楽しむ。 大好き!じさま♪ かわいい 虎次や・・ 小さな漁師町の古い病院の 海辺が見える一番奥のベッド。 何もかも白いだけのじさまの1日が 今日はとても暖かに色づいていた。
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