どんな用事かは思い出せないのだけれど

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「みんなでお茶を飲みましょう」 「一緒にお茶を飲みましょう」 「さぁさぁ あなたもご一緒に」 誘われて うきうきしながらついてゆく 私は やっとみんなの仲間に入れたのね 「あそこのお店に入りましょう」 透明な硝子張りの綺麗なお店 でも少し冷たそう そう思いながらも 私はみんなの言う通り そのお店に入っていった 「私は紅茶をお願いするわ」 「じゃあ私も」 私はコーヒーを飲みたいのだけど みんなが紅茶を選んだので 私も紅茶にした あっ・・・ 突然用事を思い出してしまった ごめんなさい  みんな どうぞ先に飲んでいて 家に電話をしなきゃならないの     どんな用事かは思い出せないのだけど・・・ トゥルルルル・・・ 苛立ちながら呼び出し音を数える でも誰も出ない 確かに電話をしろって言ったのに 家族みんなして言ったのに 諦めて 私はテーブルに戻ろうと引き返した でも誰もいない みんなは何処に行ったの? 店のお姉さんに訊いてみる 少し戸惑ったようにお姉さんはこう答える 「あなたが電話をかけている隙に みんな店を出て行ってしまいました」 「あなたがいなくなるのを 本当はみんな待っていたのです」 泣きそうになりながら 私はうなだれて一人店を出る するとそこは知らない風景 さっき来た道はどこに消えたの? お店のお姉さんに訊こうと思って振り返るけれど お店も無い 道行く人に訊いてみよう そう思うのだけど 誰も通らない 私以外は 建物も何もかも消えてしまった 駅へ行くにはどうしたらいいの? 家に帰るにはどうしたらいいの?                                                                          泣き乍ら 心の中で もう私には分かっている       帰る家なんて                       もう何処にも無いのだと 「追憶」                   失った日々は遥か彼方            ふわふわと舞いながら私を笑う            もう戻れはしないよと            もう戻れはしないよと                                                                                         
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