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カルテその1-II 純一
「瑠璃子さんさっきから思っていたんですが、行年ってなんですか?」
菜美は耳打ちでこそりと聞いた。
「位牌に書くやつよ」
「生きてますよ」
「毎日が生まれ変わりよ。それが出来ない人間は生きる屍」
なんだかわからない理論に首を傾げているうちに、佐渡純一は話し始めた。
「先生、今日はですね。どんな辛い結果になっても帰りませんよ。もう逃げないって決めたんです」
純一は拳を机に叩きつけた。
「鑑定時間は30分ですよ」
と言う菜美を純一は見上げ睨みつけた。
「知ってるよ、そんな事。Open当時から来てんだよ俺は」
「わたしは初めてなので」と眉間に皺寄せする菜美に、うんうんうなづきニヤける瑠璃子。
「わたしは今回の恋は絶対諦めたくないんです。
どうにかなりませんか」
「わかりました、では今回は水晶で視てみましょう」と瑠璃子は両手をかざしブツブツと呪文のようなものを唱え始めた。
突然「みっ視えた」と叫ぶ瑠璃子に菜美と純一はビクッと上半身を引いた。
「これは凄い、、解決の言葉が降りてきました。二文字の聖なるメッセージです」
「本当ですか!成就とか奇跡とかそんなんですか?」純一は目をキラキラさせて立ち上がった。
それはまるでRPGでヒットポイント1の瀕死の時、敵のターンでミスが起き自分のターンでクリティカルヒットで倒してしまった時の少年の目であった。
「答えてしんぜよう〜 その二文字とは
無理!!
以上」
数秒時が止まった後、純一はわーー!と雄叫びをあげた。
「先生、俺あきらめないからな!!」
え⁈と菜美は純一と瑠璃子の顔を見比べた。
「純一よ、今回のお薬よ」
瑠璃子は梅ガム一枚と
診断書に病状【初恋は甘酸っぱい】と書いて置いた。
純一は両手を上げて、小学生のように喚いて出て行った。
「佐渡さんの好きな相手って」
「そうよ、わたし。だから百発百中でしょわたしの占い」
してやったりと瑠璃子は髪をかき上げた。
「それゃそうですよ。瑠璃子さんのさじ加減なんですから あ!」
料金を貰ってない事に気づいた菜美は、店を出て純一を追いかけた。
イヌも診断書を咥えて追いかける。
「待ってくださーい。佐渡さーん!!」
泣きながら走る35才、それを梅ガムを持って追いかける17才。さらに診断書を咥え走る猫。
わたしはいったい何をやっているんだろうと菜美は走りながら思った。
まるでわたしが佐渡純一を好きみたいになっているではないかと。
さらに菜美は思った。ここで料金をとり診断書と梅ガムを渡さないと、わたしの職業はつっこみになると。それだけは嫌だ。将来確定申告の時職業つっこみと記載し税務署から怒られる人生は避けたい。
今がふんばりどころよ菜美。そう自身に鞭をうち菜美は走り続けた。
制服に白衣をまとい、梅ガムをたからかにあげて。
「じゅんいちー!まってー 話をきいてーー
じゅんいちーーーーー!!
あと、35才のくせに初恋なんですかーーー⁈」
「にゃーーん」
菜美とイヌの叫びはアーケードに響きわたるのであった。
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