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本編。
「フハハハハ! 異星の青年よ! 其方の筋肉はまさに災害レベルに達している! 其方はこの星の、いや全宇宙の危険因子だっ! そのため、この薬を投薬する刑に処す!!」
青年は法廷兼刑場の広場で、人の背丈の数倍はあるがっしりとしたロボットに拘束され、目の前に立つ機械帝国の皇帝を睨みつけた。
「その薬はッ! 生存限界ギリギリまで筋力量を落とす悪魔の薬! くそっ! 放せーっ!!」
「フハハハハ! いかに其方が鍛えられようとも、そのロボ三体を振り払うには核爆発三万発分のエネルギーが必要じゃ! 流石の其方にもそれほどの力はあるまい!」
皇帝の言う通り、どんなにもがいてもロボットの拘束からは抜け出せなかった。
「どれ、わし自らこの薬を飲ませてやろうではないか!」
「やめろ! 俺の筋肉を否定するなー!!」
青年は必死で抵抗するが、皇帝が舌なめずりをするように笑いながら、錠剤を青年の口に放り込む。
薬を吐き出そうとした青年の口をロボが塞ぐ。ためらず青年は薬を飲み込んでしまった。
その瞬間! 青年の体から煙が立ち昇り、鍛え上げられた筋肉がどんどん萎んでいく!!
「あーはっはっは! これぞ筋肉に対する機械の勝利なのだ!!」
『機械万歳! 機械万歳! 機械万歳!!』
広場を埋め尽くした観衆から、歓声が上がる。しかし、ある一人の少女が、地面に倒れ伏す青年に近寄った。
「お兄さん、悲しいの?」
「俺の信じていた筋肉が……筋肉が消えてしまった……たった一錠の薬で……」
打ちひしがれた表情で涙を流す青年の頭を優しく撫でた少女は、皇帝をキッと睨みつけた。
「皇帝様! 陛下のやったことは間違っています! あたし達の機械帝国は宇宙に平穏と正義を広めるためにあるはず! こんなふうに誰かの心を失わせるのは、帝国の国是に反します!!」
「なんだと? マザーとの接続もまだのそのような幼い身で我に意見するか!! ロボよっ! その者を捕らえよ!!」
「きゃあっ!!」
ロボが少女を捕まえようと襲いかかかってくる!! 青年はすすべなくそれを見つめていた。
……くそっ、俺に筋肉、筋肉さえあればッ!!
立つことすらままならない青年は心の中で呻いた。そして少女が捕えられようとした瞬間!!
「掲げよ拳! 筋肉は全てを凌駕し! 筋肉の元に全てが従うのだ!! そう、筋肉こそが最強の力! お前の筋肉はその程度かッ!!」
いきなり天空から隕石が降ってきて、広場の上空に静止する!
そして、その下に仁王立ちになった人物の大音響が響いた。
「お、お前は……あの時の!!」
その隕石はかつて青年の故郷に降り、青年の旅立ちのきっかけになったもの! そしてその下に立つ人物はかつて青年と拳を交わした男!! 彼の一喝に青年は力が蘇るのを感じた。
「とうっ!!」
青年は、ロボの前に立ち竦む少女に駆け寄り、ロボ達の攻撃から彼女を守った。
「な、なんだと!? お前の筋肉はもはや消滅したはず!!」
「体の筋肉は薬でどうにかできても、鍛え上げた心の筋肉までは誰にも消せはしない!!」
「よく言った! それでこそ我が好敵手!!」
「くっ! 世迷言を!! ロボ達よ、機械帝国の力を示すため、奴らを捕らえよ!!」
ロボットが皇帝の命を受けて青年達に迫る!! 青年はほぞを噛んだ。薬によりほとんどの筋肉を失った今、心の筋肉だけでは的確な反撃はできない。どうする? どうすればいいんだ!!
「我が好敵手! この筋肉を受け取るのだ!!」
だがその時! そう言って隕石の人物が青年へと手を差し出してくる!! 青年はその手をガッチリと握り返した!!
「うおおおおおおおお!!」
「ま、まさか!? 薬の効果を筋肉だけで跳ね除けただとっ!?」
慌てふためく皇帝の目の前で、青年の筋肉が回復していく!!
「機械の作った薬程度! 筋肉の前には偽薬も同然ッ!!」
「ありがとう。ああ、筋肉が新しく生まれ変わっていく……これで!!」
青年は手首を拘束していた手錠を、勢いよく引きちぎった。
「なんだと!? ダイヤモンドの一兆倍の硬さの枷を破壊した!? させるかぁぁぁぁぁぁ! ロボ達よ! 奴らを排除しろ!」
再度、青年達にロボが迫る!! だが、筋肉を信奉する二人はしっかりと拳を握った!!
「うおおおおおおお!! 筋肉こそが力!! 筋肉は全てを凌駕し! 筋肉の元に全てが従うのだ!!」
「うおおおおおおお!! いいや! 筋肉は力、だが! 筋肉は全てを守り! 全ての命の愛を育むものだ!!」
二人の拳と筋肉がロボット、そしてその後ろにいた機械帝国皇帝を空の彼方へと吹っ飛ばす!
『わぁぁぁぁぁぁ!!』
広場に詰めかけた観衆がざわめいた。
「復活した我々の筋肉は核爆発五万発分の威力があるのだ! しかし、我が好敵手。この程度で我の助けが必要だとは情けないッ!!」
「すまない、だが感謝する」
「だがこれでわかっただろう。筋肉は全てを支配する大いなる力だと言うことがッ!!」
「っ、それは……」
肩をそびやかす隕石の人物に、反論しようとして反論できなかった青年の元に、先ほどの少女がトコトコとやってきた。
「お兄さん。助けてくれてありがとう。あたし達今まであの薬のせいで機械皇帝の洗脳にかかっていたみたい」
「そうか、洗脳は解けたんだな」
「うん。お兄さんの筋肉は最高だねっ!!」
「何を言うか! 我の筋肉がお前達を救ったのだぞ」
「隕石のお兄さんは、怖いから嫌い」
「な、何ぃっ」
「あたしもお兄さんを見習って筋肉をつけるよ! 筋肉は愛を育むもの、でしょ?」
「その通りだよ。少女!」
「な、何を言って……。筋肉は力っ!」
「だが、愛でもある。君だって筋肉から生じる愛ゆえに、俺を助けてくれたのだろう?」
「き、筋肉が愛、だと!?」
「そうだ、君だってわかってるはず。」
「そうだよ。筋肉は全宇宙を守る愛なんだよね。お兄さん!!」
「くっ、負けた……俺の筋肉ではお前達を論破できない……ッ」
ガックリと跪いた隕石の人物に青年は手を差し出した。
「項垂れるな。君の筋肉も確かに愛なのだから」
「ふっ、愛か。そんなもの故郷の星団をは離れる時に全て置いてきたと思っていた」
そう言って、隕石の人物は青年の手を取った。
「だが、俺の筋肉の中にも、確かに愛が息づいているッ!! それに気づいたッ!」
「ああ。だから君はここにいる!!」
そう言って、二人はガッチリと拳を交わした。
『そうだ。これが俺たちの筋肉なんだ!』
『わぁぁぁぁぁぁぁ!! 筋肉こそが愛! 筋肉万歳! 筋肉万歳! 筋肉万歳!!』
洗脳が解けた民衆から喜びの声が上がる。
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