夢使いの仕事

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 メイムは見知らぬ街の中にいた。強い雨が降っている。空も分厚い雲に覆われ、昼か夜かもわからないほどだ。 (眠ったはずだよね? ということはここがお母さんの夢の中ってこと?)  いつの間にかメイムの服装が探偵のような茶色いチェック柄のワンピースに変わっている。普段はあまり選ばない系統の服だ。その世界に合わせた服に変わるということだろうか。改めて人の夢の中にいるのだと実感する。 「ほっほっほ! 無事に夢主の夢に入り込めたようだね」 「その声はアタエおばあちゃん? どこにいるの?」 「ここだよ、ここ」  胸元へ視線を落とすと、アタエから渡されたアロマペンダントがあり、オレンジ色に淡く光っていた。声はペンダントからしているらしい。 「私は歳をとった。もう人様の夢には入れないけれど、声を届けることなら出来るからねぇ。さて、雨の街となると傘を用意しないと。バディフ、作り方を教えてあげておくれ」  バディフはメイムの首元の後ろに隠れていた。不安そうにもじもじしながら、白い羽をパタパタとさせてメイムの正面まで飛んでくる。 「あのね、腰にポーチがあるでしょ? 開けてみて」 「ポーチ?」  確かに腰にアロマストーンとそっくりな白いポーチがあった。中にはアロマの瓶が三本入っており、ふたの部分がスプレーになっていた。 「傘を差している自分を強く想像しながら、アロマスプレーを一本を選んで。そして『我が心を映し出せ』って唱えながらスプレーヘッドを押して」 「どうやって選べばいいの?」 「多分メイムなら直感でわかると思う。集中して。ゆっくりでいいから」 「傘を差している自分……傘……」  メイムは集中しながら三本のアロマを見比べた。赤、薄紫、黄色の三色だ。それぞれが何のアロマなのかはわからなかったが、不思議と赤の瓶が輝いている気がして手に取った。 「我が心を映し出せ!」  スプレーヘッドを押し込むとミストがふき出し、バラに似たフレッシュな香りが充満した。ミストは音もなく一つに集まって、明るいベージュの傘を作り出した。布地はバクの柄になっており、メイムは思わず顔をほころばせた。 「すごい! 本当に傘になった!」 「メイムがちゃんと想像したからだよ。ボクもミストは出せるけど、リトルメアの気配を感じると怖いことしか想像出来なくなっちゃう。だから夢を描いてくれる夢使いがいないとダメなんだ」  アロマペンダントから、ほっほっと笑い声が聞こえてくる。
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