夢使いの仕事

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「ゼラニウムを選んだんだねぇ。その精油は、あなたは守られているという応援のメッセージを秘めているわ。その香りが心地よく感じるなら、メイムちゃんは周囲の愛を素直に受け入れられているということ。雨から身を守る傘を作るのにはぴったりな精油ね」 「そうだったの? なんとなくで選んだのに、不思議」 「香りの持つメッセージを直感で感じ取り、夢に投影するセンスこそ夢使いにとって一番重要な素養なの。私の見立て通り、メイムちゃんには才能があるみたいだねぇ」  バクの傘を雨粒が絶えず叩いている。その景色は夢アロマの瓶に浮かんだものとは似ても似つかなかった。 「アタエおばあちゃん。私がお母さんに渡したのって青空の夢アロマだったの。なのにどしゃ降りなのはどうしてなんですか?」 「この雨をリトルメアが降らせているからよ。雨のせいで青空が隠れてしまったのねぇ。でも大丈夫。メイムちゃんが丁寧に相手の心と向き合って、夢アロマの持つメッセージをしっかり伝えることが出来れば光が差すわ」 「心と向き合って、メッセージを伝える?」 「そう。やってるうちにだんだんわかってくるはずよ。さぁ、頑張って!」  誰かのため息が聞こえる。音の方へ行ってみると、見えてきたのは探検家のような帽子とベストを着た女性だった。全身ずぶ濡れで、薄いベージュの服が茶色になってしまっている。帽子で顔はよく見えなかったが、誰なのかすぐにわかった。 「お母さん!」 「メイム? どうしてここに?」 「濡れたら風邪引いちゃうよ? 私が傘を作ってあげる。我が心を映し出せ!」  メイムはアオが傘をさしているところをイメージしてアロマをスプレーする。しかしミストが傘に変わろうとした瞬間、アオがくしゃみをし、ミストがかき消えてしまった。 「あれ? どうして?」  胸元のアロマペンダントから、悩ましげな唸り声が聞こえてくる。 「今のお母さんにはゼラニウムの持つ応援のメッセージがうっとうしいのね。リトルメアのせいで余計に心がふさぎこんでしまったんだわ」 「どうすればいいの? お母さんが濡れたままなんて嫌だよ」 「悪夢をはらえれば雨もやむわ。そのために大切なのは、お母さんとしっかりお話して、不安や怒りを取り除いてあげること。ここは夢の中、本当の心が現れるから本当の声が聞けるはずよ」  その言葉を肯定するように、アオは雨の空を見上げてつぶやいた。
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