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不思議なアロマ
架橋メイムはオレンジ色のランドセルを弾ませながら、夕焼けに染まり始めた通学路を歩いていた。
「図工は来週から工作か~。ああー、憂うつ~」
「メイちゃんが得意なの、絵の方だもんね。私は工作の方が好きだけど」
メイムの隣を歩く黒いランドセルの少女がふふっと笑う。ベージュのキャップを被ったショートヘアーの黒髪がさらさらと揺れた。古舘ハガネ、メイムと同じ小学五年生で、帰る方面が同じのため、よく一緒に下校していた。
「だって、工作って言ったら糸のこでしょ? 私、苦手っていうか……」
「あれ、しっかり押さえないとバタバタするもんね。今度使う時、隣で見ててあげる。アドバイスとか出来ると思うし」
「いいの? わあ、ありがとう! ハーちゃんがいたら百人力だよ!」
「大げさだよ。ふふっ」
両手を上げてぴょんぴょんと跳ねる。ツインテールにしたチョコレート色の髪をふわふわと揺れ、おねだりして買ってもらった黄色のワンピースのすそが花のように広がった。
ガシャン。
何かが倒れる音がして顔を上げると、一人のおばあさんが困ったように辺りをきょろきょろ見回していた。雪のような白髪をおだんごにまとめ、紫色のストールを巻いている。足元には倒れた押し車があり、球根や瓶が転がっていた。メイムは咄嗟におばあさんに駆け寄った。
「大丈夫ですか? 拾うの手伝います!」
「おやまあ、ありがとね。どっこいせっと……。あら」
おばあさんは眉をひそめる。押し車のタイヤが片方外れてしまっていたのだ。
「大変! これじゃあ荷物を押して帰れないよ」
「買い物袋を背負って帰るしかないわねえ。押し車はちょっと置かせてもらって、荷物を置いたら取りに来ようかしら」
「それなら押し車は私が持っていきます。おばあさんの家はどこにあるの?」
「ここから十五分ほど行った先だけど……。いいのかい? 学校から帰る途中なんでしょう?」
「ちょっとくらい寄り道したって大丈夫! ハーちゃんは塾だよね? 私一人で大丈夫だから先帰ってて」
「えっ、でもそんな大荷物……」
「へーきだよ。ほら!」
メイムは買い物袋を元気よく抱えてみせる。おばあさんがほっほっと穏やかに笑った。
「あらあら、力持ちのお嬢さんだこと。任せても大丈夫みたいよ。キャップのお嬢さんは無理しないで」
「ご、ごめんなさい……。メイちゃん、よろしくね」
「うん! おばあさん、行こ!」
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