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夢使いの仕事
「ただいまー! すぐご飯作るから、テーブルふいておいて!」
「ふえ? お母さん……?」
玄関から聞こえてくる声で目を覚ます。日はすっかり沈んだようで、すりガラスの窓は藍色になっていた。バクの形のディフューザーは水を使い切って止まっている。寝ぼけまなこをこすって時計を見る。ずいぶん長い夢を見ていた気がするが、一時間しか寝ていなかったようだ。
リビングに行くと、食材を抱えてキッチンへ行くベリーショートの背中が見えた。架橋アオ、八年前にメイムの父親が病死して以来、女手一つで育ててくれている自慢の母親だ。おもちゃメーカーで商品開発の仕事をしており、メイムの部屋にも試作品や小さな汚れで売れなくなったおもちゃが沢山あった。
「テーブルふいてきた。今日は何作るの?」
「野菜たっぷりのワンタンスープよ。冷凍ご飯、出してくれる?」
「いいよ。あと、にんじん入れるなら皮むきする」
「本当に? 助かる! ピーラー出しておくから、お願いね」
アオが玉ねぎを切る横で皮むきを始める。簡単な作業を手伝うのはいつものことだ。仕事で夜まで帰ってこないアオのために、メイムは掃除などの簡単な作業をすすんで行っていた。アオからありがとうと抱きしめてもらえるのが嬉しいからだ。
晩ご飯が出来上がり、二人でテーブルを囲む。テレビのトーク番組を見ながら、出来たばかりのワンタンスープを口に運んだ。鶏がらスープで染み染みの野菜は、自然の甘みたっぷりでおいしかった。
「へえ、困ってるおばあさんを助けたの。偉かったね」
「うん! それでお礼にアロマをもらったんだけど……」
「ふあ……」
アオが大きなあくびをする。よく見れば目の下にくまが出来ており、体もだるそうだ。
「お母さん、具合悪いの?」
「ううん。最近変な夢ばかり見るから、ちょっと疲れが取れなくて」
「変な夢?」
「よく覚えてないけど、探し物が見つからない夢を見るの。大切な、大切な何か。せっかく寝るなら楽しい夢を見たいのにね」
「そうだったんだ……。ならおばあさんからもらったアロマが効くかも! あとで貸してあげる!」
「アロマ? なんだか効きそう。今夜使ってみるね」
アオは疲れきった顔で笑い、飲み物を取りに席を立った。その背中を見てドキリとする。アオの首にコウモリのような小動物が貼りついていたのだ。コウモリは鉛筆くらいの槍を振り、キキキと耳障りな笑い声をあげると煙となって消えた。
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