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翌日の放課後、メイムは再びアタエの家を訪れていた。
「ふむ、夢アロマを使っても、お母さんには効果がなかったのねえ」
「そうなんです。ちゃんと星空の夢が見れるアロマを渡したのに、何も変わんなかったって。どうしてなのかわかりますか?」
フルーティーな香りのするティーカップを口に寄せ、ふうふう冷ましながら一口だけ飲む。アタエが淹れてくれた自家製のハーブティーはかすかに甘く、体に染み渡るような爽快感があった。
「きっと今のお母さんには星空の夢アロマは必要ではなかったのね。だから効果がなかったんだと思うわ」
「必要なアロマじゃないってどういうこと?」
「たとえばメイムちゃんが嫌なことがあって落ち込んでた時、『元気出して』って言葉をかけてもらったら嬉しくなるわよね。でも嬉しいことがあった時に『元気出して』って言われたらどうかしら?」
「うーん、なんとも思わないと思う。だって元気だし」
「アロマも一緒。必要なアロマを使えばいい効果をくれるけれど、そうじゃない時は効きが悪かったり、逆に嫌な気分になったりするものなの」
「そうなんだ。アロマって奥が深いんですね」
「でも、お母さんについては夢アロマを別の物に変えただけじゃあ上手くいかないかもしれないわ。悪夢を呼ぶ黒き妖精、リトルメアにとり憑かれてしまっているようだから」
「リトルメア? 何それ?」
「お母さんの背中にいたコウモリのことよ。顔はバクとよく似てるんだけど、光があれば影が出来るように、バクとは対の存在として生まれてくるのね。人間の不安や怒りに吸い寄せられて、首元にちょこんと居座って悪い夢を見せるの。不安や怒りが弱まれば自然に離れていくけど、時間はかかると思うわ」
「そんなの可哀想! なんとか出来ないんですか?」
「ほっほっほ、そう焦らさんな。リトルメアも妖精、ちょっと手助けすれば追い払うことが出来るわ」
「どうやるですか? 私、知りたい!」
「うんうん。リトルメアが見えたということはメイムちゃんには素質があるということ。きっと出来るわ。悪夢をはらう夢使いのお仕事が」
「夢使い?」
アタエはメイムの持ってきたアロマ道具一式のポーチを開け、宝石のような輝きを封じ込めたアロマの瓶を並べた。
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