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僕は島へ向かう飛行機に乗っていた。
いよいよ、目的地が近づいて海のそばを飛行したので窓の外を見た。
太陽が近く、海はてらてらと銀に反射して揺れている。それが僕と並走して、てらてら、走っている。
また波の模様は連なり、皮膚のようで海がひとつの生命体に感じられた。
ふと、小さく船がいるのに気がつく。
水平線を目の前にして、船人は世界でただ自分しかいないという気持ちにならないのだろうか。漕ぐ船の白波の尾を見て、僕はああ、なるほどと思った。
『あれは、ここに居るんだという印をつけているのか。誰かに見つけてもらうためだ。』
僕は船人を賢いなと思ったが、印が数分で海に溶けてしまうことに気付いて、心を痛めて船人をあわれに思った。
海を見下ろすと、鮮やかな海に斑に浮かぶ珊瑚の黒が美しく透けていて、それは地球の秘めごとに違いなかった。
海のてらてらはそれを隠すようにして、僕の覗きを邪魔する。
これを知っているのは、どれだけいるだろうと僕は考えた。
『秘めごとを撫でるように航海する船人は、この美しさを知っているかしら。僕の前後に腰掛ける婦人や紳士は、珊瑚の斑を見つけたかしら。』
てらてらは今だに海原の皮膚であるかのように張り付いている。その眩しさにじっと向き合っていると、これに気づいているのは僕と太陽しかいないのだと思った。
『心奪われて傾倒しているだけではいけない。この美しく壮大な生命体の様子を、船人が海に印をつけたように僕は言葉の印をつけて、誰かに気付いてもらうべきだ。』
僕の言葉を見つけてほしい。
だからこうして綴っているけれど、果たして誰がこの秘めごとに気付いてくれるだろうかと、僕は瞳をてらてらと濡らし淡い気持ちを隠すのであった。
〈了〉
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