Your story

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———————————————————  これまで、壱に一度だけ嘘をついたことがある。  中学の時、飼っていた猫のコテツが死んだ。  朝起きたら、僕に寄り添うような形で丸まり、冷たくなっていたのだ。  正直泣きたいくらい辛かったが、その日はテストだったため、迷った挙句、無理やりにでも学校に行った。  その日の朝はいつもより遅れたので一人で登校し、朝のホームルームが終わったくらいにちょうど学校につき、うまく気配を消したまま教室に入り、席に向かった。  しかし、壱だけがそれに気づきどうしたのかと聞いてきた。  話したかったが、気力がなかったのでとりあえず体調がすぐれないとだけ言うことにした。  三つ目のテストが終わり、こっそり持ってきていた携帯を確認すると姉からメールが来ていた。 『コテツ、みんなでそろって裏山にお墓作ってあげよう。墓石には、庭にあった綺麗でわかりやすい石選んでおいたから。』  それと写真が一枚。  墓石に姉が安い彫刻刀で頑張ってコテツと彫ったものだった。  その不器用で今にも消えそうな薄く彫られた字を観た瞬間、いてもたってもいられなくなり、体調不良とだけ言い残し、学校を飛び出した。  中学校から家まで歩いて三十分はかかるので、走っては休みを繰り返していると、後ろから自転車に乗った壱が追いかけてきた。  訳が分からず、 「何してるの」と聞くと、 「後ろ乗れよ。その方が早いだろ」 と事情も聞かずに乗せてくれた。  それは、自転車通学が禁止されてた僕の中学に楽に通うために壱が用意して、普段は学校近くの神社に隠してある自転車だった。 「おまえ、わかりやすすぎ。何か事情があるなら詳しく話さなくていいから協力させろ」と全速力で自転車をこぎながら壱は言った。  その時僕は、壱の存在の大きさに気づいた。  家に着くと、僕はコテツを埋葬するために、家族で裏山に行った。  その間、壱は何も言わず僕の家の前で待ち続け、終わった後、 「今度、ツナ缶買ってくるから、墓参りさせてくれ」と言った。  僕はただ涙を流し頷くことしかできなかった。 ———————————————————  とにかく壱はそういうやつなのだ。  それを理解した上で、嘘はつけないし、つきたくないと思っている。  そういうわけで、今朝の夢についてできるだけ詳しく、聞こえた言葉まで事細かく話した。馬鹿にされることを覚悟して。 「アキト、それ予知夢だよきっと」  壱は、話を聞き終えて数秒考えるそぶりを見せると、馬鹿にすることも疑うこともなく、電車の窓から流れる景色を観ながら呟いた。  あまりに自然に呟いたので、あっけにとられて壱を見つめているとこう続けた。 「お前も聞いたことくらいあるだろ? 予知夢。 なにか、その人にとって重大なことが起こりそうになると、前もって知らせてくれるあれだよ」 「いや、聞いたことはあるけど。 ただ壱はそういう迷信みたいなの信じないと思ってた」 「いや、迷信じゃない。と思う。 予知夢じゃないが、俺自身も常識じゃ考えられないような体験をしたことがあるからなぁ。 ほんと、今でもあれは夢だったんじゃないかって思うよ」  壱は遠い目をしながら続けた。 「中学最後の野球の大会、お前も見に来てくれた試合あるだろ。 あの日、俺試合に遅刻したんだ。 まあ、具体的に何があったかはうまく言えないけど、その日の朝予定通りに家を出て駅近くの交差点で交通事故に巻き込まれる“夢みたいなもの”を見たわけ。 あまりに感覚がリアルだったから気持ち悪くってさ、親に車で送ってもらったんだよ。 それで試合終わった後家でニュース観たら、夢で見た交差点で事故が起きててさ。 はあ、なんでだろうな。 まったく・・・やるせないよ」  横から見る壱の顔はどこか憂いを帯びていた。  確かにあの事故は、地元では未だかつてない大きな事故だった。  運転手の発作が原因で、その車は時速七十キロメートルを超えて歩道に突っ込み、運転手は死亡、さらに歩道にいた女子高生が一人巻き込まれ死亡。  二人の死者が出た大きな事故だった。   忘れもしない。  おそらく本当の話だ。  壱はこのような類の話で嘘はつかない。  だとしたら、ほんとに予知夢なのだろうか。  あの女性はどのような形で僕の人生にかかわってくるのだろうか。
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