拾い物

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拾い物

 変なものを拾った。  アコは風邪でお休みなので、今日は一人で帰ることになった。  私は普段アコと帰る道ではなく、あまり通らない道から帰ることにした。  たまには寄り道もしてみようかなって、ほんの軽い気持ちで。  いつもと違うことをすると、いつもと違うことが起こるのは何故だろう。  ビンが落ちてた。  それだけなら気にならなかったけど、そのビンはとても変わっていたので、つい立ち止まってしまった。  思わずビンを拾う。 「変な色……」    フタは青い。容器は透明の色んな色が、段重ねにビンを囲んでいた。  中には錠剤みたいなのがたくさん入ってた。何かの薬だろうか。  ビンを調べると、底に何か書いてあった。 『気持ち(ぐすり)』  気持ち薬? 何だろう。  うーん。怪しいから交番に届けようかな。  私は交番に向かおうと、後ろを振り返って走り出した。 「きゃっ!」  バンッと何かにぶつかった。  見上げると、目付きの悪い男の人がこっちを睨んでいた。 「ご、ごめんなさい……」 「危ねえだろうが! 気を付けろ!!」  男の人は、チッと舌打ちして、去っていった。  ……ああ、怖かった。  でもあんな言い方はないんじゃないの? そりゃ周りも見ずにいきなり走った私も悪かったけど。  とにかく交番に、と思ってビンを見てみたら。 「あれ、色が変わってる……」  一体どういうこと? 「あ、そうだ」  私は再度ビンの底を見てみた。何か書いてあるかも。  ……やっぱり。  さっきとは違う文字が書いてあった。 『青色模様は冷静の素』  冷静の素、か。  もしかしてこれを飲んだらイライラが治まるとか?  まさかねえ……。  でも、物は試しだ。  ちょうど水筒も持ってきてるし。 「何か食べなくていいかな」  ビンにはさっきの文以外は何の説明もない。  私はとりあえず何か口に入れた方がいいかなと思って、今朝リリちゃんからもらって、スカートのポケットに忍ばせていたあめを口に入れた。  パクッ。  ……にがっ。  この味、ミントだ。  ミントは苦手だ。でも吐き出すわけにもいかないし。  私は苦いのを我慢しながら口の中であめをとかす。 「はあ……」  ただでさえ、さっきの男の人の暴言にイラついていたっていうのに、今のでいっそうムカムカしてきちゃった。リリちゃんには悪いけど。 「ほんとに、これ効果あるのかな?」  とりあえず、このイライラムカムカを抑えたい一心で、私はビンのフタを開けた。  中を覗くと青々とした薬が大量にあった。ちょっと怖い。 「……一粒、でいいかな」  私はビンから一粒取り出して、口に含む。水筒の水で一気に喉に流し込んだ。  するとどうだろう。  さっきまで感じていたイライラやムカムカが嘘みたいに、キレイさっぱりなくなっていた。 「すごい、これすごい!」    私はとんでもなく、すごいものを拾ってしまったのではないだろうか。  こんなにすごいもの、手離すなんてもったいない。  それに、きっとこういうふしぎな薬は、誰かに渡さずにそのまま持ってる方がいい。  私は交番に向かおうとしていた足を、家の方に向けた。
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