鎌倉忠犬物語(7)

21/30
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/132ページ
 後継者問題でも、御所様のお考えのとおりに、物事が進もうとしていた。  御所様は当初、御台様との間に御子がお生まれにならなかった場合に備えて、京のやんごとなきお方に、御台様の猶子となった姪の竹姫様を嫁がせて、その系統を後継者候補とすることを考えておられた。それがさらに本格化して、御所様は何と、逆に院様の皇子を鎌倉にお迎えして竹姫様を娶せようと考えられたのである。そのような大事の交渉事を任された尼御台様は、熊野権現への参詣を口実に、時房をお供にして鎌倉を立たれることになった。  熊野権現と言えば、我が祖先縁の地である。京の地には、神の血を引かれる帝や院様という尊いお方もおられるという。宋へ行くことはかないそうにないが、獣ながら、せめて先祖ゆかりの地と御所様が憧れる御台様の故郷を一目この目で見てみたかった。  だが、この時、妻久米には私の子が宿っていて、出産間近であった。  そんな妻と間もなく生まれてくる子を置いてどうして自分だけ旅に出ることができようか。  だが、そんな私に対して、久米はきっぱりと言って私を送り出した。 「私に遠慮することはいりませぬ。行っておいでなさいまし。我が君。」  
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!