鎌倉忠犬物語(1)

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鎌倉忠犬物語(1)

 私は、白い子犬である。母上は、時の鎌倉殿源実朝公が、御所の庭に植えたという菅原道真公ゆかりの梅の木にちなんで、「飛梅(とびうめ)」という名を付けてくださったが。その名を知る人間は今のところ誰もいない。  母上の話では、母上の系統は、先祖代々熊野権現のお使いである由緒正しき紀州犬で、母上の両親は、先の鎌倉殿源頼家公にお仕えしていた狩猟犬らしい。鎌倉殿にお仕えしていただけあって、私の母方のおじい様は全身真っ白、おばあ様はふさふさとした赤毛の大変立派な紀州犬であったという。最初、おじい様は「シロ」、おばあ様は「ハチ」と頼家公とその近習達から適当に呼ばれていたらしい。  しかし、当時は、まだ千幡君と呼ばれていた、頼家公の弟君で今の鎌倉殿実朝公が、「シロ」ではありきたりすぎる、八幡宮に由来するのだとしても、雌犬にたいして「ハチ」はあんまりだろう、と異を唱えられた。それで、千幡君から、おじい様は「白梅(はくばい)」、おばあ様は「紅梅(こうばい)」という雅な名を賜ったという。  
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