鎌倉忠犬物語(7)

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「近習の中から、ひとまず九州へ行かせて、そこから宋へ向かわせてはいかがでしょうか。」   自分が行きたそうな期待を込めて言う時房に対して、御所様は少し意地の悪そうな顔をされておっしゃった。 「五郎叔父と太郎は、鎌倉を離れられぬ私と小四郎叔父の側で何かと役立ってもらわねばならぬから、行かれぬぞ。」  それを聞いた朝時が、調子に乗って口を挟んできた。 「なら、年齢からいって、北条の代表として儂が行きます!」   朝時の言葉に、父の義時と兄の泰時が一斉に異議を唱えた。 「お前のような馬鹿息子が行っても、物の役にも立たぬわ!」 「異国で羽目を外して、我が国の恥となるだけだ!身の程知らずが!」 「葛山五郎が熱心に異国の言葉を学んでいたな。落ち着いたら、彼にとりあえず九州に出向いてもらうとするか。」 「海のことなら、我ら三浦にお任せください!ご助力いたしますぞ!」  御所様のお言葉に、三浦義村も笑いながら話に乗った。  御所様にも、武家の棟梁としての深いお悩みはあられたはずだが。私の知る限り、御所様は、それでもいつだって前を向いて努めて明るく皆を導いておられた。  
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