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「いい加減にしておけよ、次郎。」
真面目な兄らしき男が、次郎と呼ばれたこの家の若い主人らしき男を嗜めていたが。弟の方は、にやにやへらへらといやらしい助平面を浮かべて思い出し笑いをしていた。
「たまらんよなあ。御台様とお付きの女房殿達。坂東の田舎娘なんかとは比べ物にならんぜ。へへへへへ。」
その表情は、親分と呼ばれた私の血縁上の父かもしれないこの屋敷に住み着く不良犬の首領にそっくりだった。
衝撃の事実を知って、重い足取りで名越邸を去った私は、これ以上生きるのが心底嫌になった。
(自分は、何たる親不孝者、不忠者なのだ!いっそ、このまま死んでしまおう。)
そう思った私は、いっそ死ぬなら、母上がつけてくださった私の名の由来となった御所の梅の木の下で死のうと決心した。
四方の獣(よものけだもの)たちに、御所に植えられている菅原道真公ゆかりの梅の木の場所を尋ねて、私はそこを目指した。教えられた梅の木は、大層香りが高く、鶯が巣を作っていた。私は、寒さと空腹でそこで力尽きて倒れてしまった。
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