やります! 私が弁護しちゃいます!!

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やります! 私が弁護しちゃいます!!

 コウメちゃんは何もわかっていません。  そうなのです。何もわかっていません。  私がどれほどツキに見放された不幸な女であるのかを。  例を上げれば切りがありませんが、少しだけ例を上げましょう。  小学校の入学式は天気予報で晴れなのに当日の朝は雨。土砂降りです。帰りは晴れたものの、犬のウ〇コを踏みました。当然、靴は新品です。  二年生の遠足はなんとか晴れはしたものの、お菓子を持って行くのを忘れて遠足の最大イベントである「お菓子交換(ただし、女子のみ)」に参加できませんでした。あの時の先生の憐れんだ顔は一生の思い出です。  三年生のバス遠足では車酔いになってしまい、ご想像通りキタロー袋のお世話になりました。男子からは「ポンプカノコ」と呼ばれることになります。(パパには「ダンプ松本」みたいでかっこいいと言われましたが「ダンプ松本」がわかりません)  四年生の席替えでは学期始めに実施する席替えで三回連続同じ席を引き当てます。(ちなみに一番前の席でありセンターです)うちのクラスは三十人であり、女子は十五人です。男女それぞれの列なので15×15×15であり、3375分の1。実に0.03%の確率です。これでも宝くじに当たる確率よりは低いそうです。  各学年のメインイベントで不幸体質の力を遺憾なく発揮した私がこのような重要な役割を全うできると思う方がおかしいのです。ましてやなんの準備もしていません。(ビシャモンテンさんが置いていったファイルも分厚いので、これから全てに目を通すのは更に現実的ではありません。別に「やりたくない」と言っているわけではないことをご理解下さい) 「コウメちゃん、あのね……」 「いいの!? ありがとう!!」  返しが早い。早すぎる。「イケてる女子」の素質があります。しかし、ここで押されてはダメです。 「あのね、コウメちゃん……私ね…」 「大丈夫だよ! あたしはこのドングリの中にいてアドバイスできるから! ただバレないようにだけしてくれればダイジョウVだよ!」  ダメだ。この子、人の話を聞こうとしていない。「ダイジョウV」……パパがたまに言うやつだ。パパ以外で言う人はコウメちゃんが初めてです。  このままでは「キセイジジツ」になってしまいます。かっこいい言葉ですが意味はよくわかっていません。  とにかくコウメちゃんに納得してもらう必要があるようです。 「あのね……」 「いやぁ、助かったよ。ありがとね、カノコちゃん! 神界ってさ、ホントは人間は立ち入り禁止なんだよね。だから、カノコちゃんが人間ってバレちゃうと人間以外の動物さんに、例えばだけどブタさんかなんかにされちゃって地上に返されちゃうんだ。怖い、怖い」 「は!?」  人生で二度目の低い「は」が出てしまいました。  豚さんか……せめてネコさんに…って違います。そもそも独りノリツッコミをしている場合ではありません。  それにしてもこんな重要な事をサラっと伝えるあたりはコミュニケーション能力の高さを窺わせます。やはり「イケてる女子」なのでしょうか。 「コウメちゃん、一つだけ質問していいかな?」 「一つだけ? たくさんしてもらっていいよ!」  一番ヤバそうなのは先に言ってくれたので訊くのは一つだけで良いでしょう。 「その裁判で敗訴っていうのか? そうなっちゃったらどうなるの?」 「ん~……。例えばだよ、仮に負けてしまうと……」 「負けてしまうと?……」 「……」 「……」  ……タメが長い……。思わず「ファイナルアンサー」と言いたいところだけどコウメちゃんは何も回答していないので、今はそのタイミングではありません。 「負けてしまうとハルマゲドンが起きて最後の審判が下されます。実質上の人類滅亡と考えてもらっていいと思う」 「ファイナルアン……え!?」  人類滅亡? それってメチャクチャ重要な裁判なんじゃないの?それを私が弁護するの? 無理じゃね? 控えめに言って無理なんじゃね? 「冗談、冗談だよ、カノコちゃん。そんなに固まらないでよ。今回は控訴審だから。つまり、最終的な判決にはならないよ。うちらが負けたら上告するし、逆に勝ったら四大天使が上告すると思う。だからとりあえずは安心してもいいよ」  いけない。いけない。動揺し過ぎて隣のクラスのハイカーストに位置する「イケてる女子」みたいな口調になってしまった。  控訴審。社会で習った気がします。上告されると最高裁判所で裁判して最終的な判決がでるんだよね、確か。 「そうなんだ。少し安心したよ。ちなみに前回はどうだったの?」  コウメちゃんは少し困った顔をします。 「人類の敗訴だよ。世界大戦を二回もやったしね。まぁ、あれはやり過ぎです。前の大戦では日本も大きな損害を受けたから弁護団には選ばれなかった。けど……」 「けど?」 「まぁまぁ。先ずはどのように進めるかについて説明しますよ。まだ少し時間があるから。そこのファイルで確認しよう!」  そう言うと3Dホログラム映像のコウメちゃんは移動することなく、ファイルの方向をじっと見つめています。  まだ、何かあるのかな? 「カノコちゃん」 「はい」  ……妙な間があります。パパの「ファイナルアンサー」の間と同じです。 「分かっていると思うけど、あたしは所詮は3Dホログラム。このように移動することも、物を掴むことができません。なのでその役目はカノコちゃんが担います」  ドングリを机の上に移動してコウメちゃんに見えるようにファイルを開きます。そこには第二次世界大戦後の世界の歴史が載っています。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争などなど。ほとんど戦争ばっかりです。 「なんか戦争ばっかりだね。たまに楽しそうな記事もあるけど」 「ああ、やっぱり気づいちゃった? そうなんだよね。この裁判の焦点は人間の犯した罪を裁くこと。その最も大きな罪状が戦争なんだよね。だから罪としてたくさん載っているんだよ」  なるほど、確かに戦争に関する分量が多い。ユニセフとか国境なき医師団とかの記事も載っているけど戦争関連に比べると少ししかありません。  前回の裁判の詳細をコウメちゃんに確認します。  そもそもこの神様の不定期裁判は不定期というだけあって頻繁には行われません。人類の歴史の中で行われたのは20世紀になってからだそうです。原因は言うまでもなく世界大戦などの大きな戦争です。  過去にもバベルの塔を壊したり、ソドムの町を殲滅したりと何かとあったそうですが。しかし、いずれも人類全体に対する審判には至っていません。  今回も検察側はホントに人類を滅亡させようと思って起訴しているわけではないようですが、なにかしらの気付きとかは与えたいと思っているようです。  神様たちも結構大変のようです。  資料はコウメちゃんと一緒に確認しました。分厚いとはいえ、そのほとんどは学校の授業などで聞いたことのある内容でした。また、戦争の話も子供新聞などで見たことのある内容です。 「基礎的な知識はこれで大丈夫そうだね。どのように反論するかは他の神様と相談しながら決めればいいよ」 「今更だけど、代表って何をするの?」 「えっとね、検察への質問とか反証とかは代表の役目なんだ。だけど心配しなくてもダイジョウVだよ。相談とかできるから。さっき話していた毘沙門天さんも仲間だからね」  ダイジョウV……なんか文脈の中に普通に出て来る。 「そうなんだ。えっと……コウメちゃんじゃないってバレたりしないかな?」 「フフフ……さっき毘沙門天さんも分からなかったでしょ?」  確かにビシャモンテンさんは私のことを「コウメ殿」と呼んでいた。ホントにバレてないんだ。 「あたしとカノコちゃんの姿は似ているから。それにドングリの中に姿を隠してはいるけど神気は発しているから他の神様たちにもバレないはずだよ。ただし……」 「ただし?」 「決して祈ってはダメ! 祈りは人間しかしない行為だから。神様は祈られる立場なので祈らない。だから気をつけてね! 絶対祈ったらダメだよ!」 「う…うん」  これは振りではなくて、本当にダメやつだ。 「分かればよろしい。バレると豚さんだしね」  うう……。重い……。 「せめてネコさんに……」 「ん~…ネコさんだとある意味ご褒美になるから多分却下だね」 「うう……」  こうして私は人類の存亡をかけた「人類存亡裁判(控訴審)」に日本弁護団代表として参加することになったのです。    
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