開廷! 人類存亡裁判(控訴審)!!

1/1
前へ
/7ページ
次へ

開廷! 人類存亡裁判(控訴審)!!

「さて、コウメ殿。準備は良いですかな」  ビシャモンテンさん達が戻ってきました。「達」というのは他の神様たちと一緒だからです。  似たような格好のおじさんが二人、鎧を着たおじさんが一人(ビシャモンテンさんの事です)、お腹が出た大胆なスタイルのおにいさんが一人、おじいさんが二人で基本的にはおじさんしかいません。  あっ、良かった。女性が一人います。とてもきれいな人です。楽器を持っています。彼女も「イケてる女子」なのでしょうか?  「はい、準備は大丈夫です。えっと……」  大変です。名前はビシャモンテンさんしか知りません。一応代表なので今日の心意気だとか、円陣を組んで掛け声をかけようと思っているのですが。その心を察したかのようにドングリのコウメちゃんが囁きます。 「カノコちゃん。その人たちはチーム七福神だよ。日本では最強クラスのめでたい神様チーム。お正月とかに見たことあるでしょ?」  たしかに釣り上げた鯛を持っていたり、楽器を奏でたり、終いにはお腹まで出している人もいます。その姿はまさにパリピ……いや、非情におめでたい神様たちのようです。 「神様は人というふうに数えるのではなく、柱という単位で数えます。今回の弁護団はあたしを含めた八柱で臨むからね」  柱。柱だと九人いないとしっくりこないなぁ……。 「うん。わかったんだけど……その、みんなの名前が……」 「ダイジョウVだよ! その内、おじいさん達が勝手に自己紹介を始めたり、チームが今のメンバーに固定されるまでの苦労話をしてくれるはずだから」 「わかった。でも、神様のチームのメンバーとか変わったりするんだね。ちょっと不思議」 「グループのメンバーが不定期に変更されるのは昨今のアイドルが始まりではないのですぞ、フフフ……」  不敵に笑うコウメちゃんであったが、その予想どおりに二人のおじいさん……いや、寿老人さんと福禄寿さんが説明を始めてくれました。  チーム七福神は大黒天、毘沙門天、恵比寿天、寿老人、福禄寿、弁財天(女性です。楽器を持ったイケてる女性です)、布袋尊の七柱で構成されている人類に福を招くために結成されたチームだそうです。昔はなかなかメンバーが固定しなかったようです。寿老人さん的には一時的にメンバーになった吉祥天さん(女性です)に所属してもらいたかったようですが、毘沙門天さんと結婚することになり、寿退社したそうです。(毘沙門天さんは意外とモテるそうです。鎧を身に付けたり、髭が生えていたりしていて今のアイドルグループにはいないタイプに見えますが……)  また、布袋尊には「寅泰」というあだ名があるそうですが、これを言うと怒るのであまり言わないようにとのことでした。    他にもメンバーの話を聞きましたが、実は日本出身ではなかったり、元々は捨て子だったりと意外にも話がディープで長いので覚えられません。ちょいちょい小学生の理解力を越えてきます。コウメちゃんに至っては見えていないのを良いことにピーピーと鼾をかいています。  とりあえずメンバーとともに法廷に向かいます。今回の検察は四大天使ということです。四大天使というと少しバトル漫画に出てきそうなネーミングですが、つまり俗にいう「天使」だよね? 絵本とかではキュートに描かれているあれのことでしょう。どんな姿をしているのか楽しみでなりません。    扉を開けると法廷です。ほぼ社会の便覧に記載されているものと相違ありません。逆にそれがリアルさを醸し出します。    左側には傍聴席でしょうか。たくさんの人が座っています。裁判とは厳粛なイメージがありましたがその雰囲気は大晦日に実施する格闘番組の観客のように活気があります。右側は裁判長が座るのでしょうか。少し高くなった席があります。ところで裁判長とは一体誰なのかな?    検察の席は……。ちょうど真向かいです。キャリアウーマンのようにスーツを着こなした女性が四人。なにやら書類等の準備をしています。検事官事務の方なのでしょう。テキパキとしていてかっこいいです。しかし天使ではないようです。(勝手なイメージですが、天使には羽と輪っかが付き物なのです) 「やっと来たか。日本の神とは悠長なものだな。戦いはもう始まっているというのに」  テキパキさんが威圧的に話しかけてきます。  それにしても随分と分かりやすい挑発の仕方です。このようなやり方は今時の小学生でもやりません。パパがよく読んでいる平成初期のヤンキー漫画にはこのような言い回しが多用されているのを私は知っています。 「なにを! おどれjktrgyp∑Ωフガフフ……」  さきほどまでニコニコしていた福禄寿さんが急に大きな声を上げます。急変するのにも驚きましたが、あのようなベタな挑発に乗るという典型的なヤンキー漫画のやられキャラ的な反応にはもっと驚きです。  しかも後半は言葉になっていません。 「じいさんよ、入れ歯が外れているぜ」  布袋さん(お腹がでている大胆なファッションのおにいさんです)が落ちた入れ歯を拾って上げます。見かけによらず親切なので安心します。こういうのをギャップ萌えというのでしょう。 「フ……相変わらずのノーテンキっぷりだな。これだから極東の田舎者(神)は困る。今回も我ら『Perfect Engels』の完全勝利だな!」  そう言いながら昔流行ったビジュアル系バンドのようなポーズを決めます。なんということでしょう。彼女らが四大天使だったのです。    しかし、なにより驚いたのは自らを「Perfect=完璧」と名乗ることと行き過ぎたビジュアル系バンド信仰です。(私の場合、ママがビジュアル系バンドファンだったこともあり耐性がありますが、一般人ではその対応が困難な ことでしょう。令和のアイドルとは全く異なったものなのですから) 「ミカエル様ーー!!」 「ガブリエル様、こっち見て!」 「ラファエルさん、素敵ーー!」 「ウリエル頑張れ!!」  傍聴席から大きな歓声が上がります。圧倒的に女性の声が多いのも特徴的です。彼女らは神界では人気があるようです。やはり神とは人知を超えた存在なのでしょう。(別にディスっているわけではありません)  あとから聞いたのですが、彼女らがスーツを着用しているのはビジュアル系≒モード系≒スーツのようです。  カーン!! 「皆、静粛に!」  法廷に入って初めてのそれらしい光景です。見ると裁判長席に誰かが座っています。その姿ははっきりと見ることができません。 「双方それぞれの席に着きなさい」  厳粛に指示を出す様は裁判長に相応しいオーラを感じさせます。名だたる神様なのでしょう。 「今回も裁判長は『神』が務めます」  ? 神? これまでとは名前の雰囲気が違いますが。 「コウメちゃん、これはどういうこと?」  不意に話しかけられたコウメちゃんは少し眠そうな声で答えます。寝ていたことは知っています。 「んん……えーとね。一神教の神様は複数いないから『神』なんだよ。むにゃむにゃ……」  ああ、なるほど。そういうことね。ネーミングとしてはザックリとしていますが、こういうところから「宗教的なイデオロギー」が生まれるのです。(「イデオロギー」の意味はわかりませんが、先生がそのような話をしていました。どの神様も「イデオロギー」には不寛容のようです)  カーン!! 「第1号『人類の罪』事件。開廷! 被告は人類全般! これから人類に対するその罪についての審理を行う。では検察、罪状朗読」  『神』はその威厳に満ちた態度でPerfect Engelsに罪状を朗読させます。 「はい主よ。罪名は再三の警告にも関わず七つの大罪、つまり嫉妬、傲慢、怠惰、憤怒、強欲、色欲、暴食を繰り返す罪です。その結果が戦争という愚かな行動に帰着しています」 「ミカエル様ーー!!」  チームリーダーのミカエルさんが罪状を朗読すると傍聴席から歓声が上がります。これでは完全にアウェイです。  それにしても自らを「Perfect Engels」と名乗ることは大罪の一つである傲慢にはならないのでしょうか? ここに矛盾を感じるのは私だけではないと思います。  それに随分と傍聴席が盛り上がっていますが、そこにいる神様全員がハルマゲドンを希望しているわけではずです。  よく見ると先ほどから歓声を上げているのは天使たちのようです。(こちらの方たちは羽に輪っかで分かりやすい)  これが俗に言う総会屋というものなのでしょうか? 場の雰囲気は検察側が持っているように感じてきます。 「では論告に移行する」 「はい、主よ」  論告? はて、なんのことでしょう? そのことについては大黒天さんと恵比寿天さんがこっそり教えてくれます。  論告とは調べた証拠に基づき、事実及び法律の適用について意見を述べるものだそうです。論告の最後に求刑するそうですが、今回の求刑は当然ながら「ハルマゲドンによる最後の審判」です。  恵比寿天さんは説明しつつ、たい焼きをくれました。釣り竿といい、生きた鯛を持ち歩くことといい、相当な魚好きのようです。 「七つの大罪を犯すがゆえに戦争という愚かな行動になるのです。その詳細を述べましょう」  ミカエルさんはこちらを向いてニヤリとします。  ミカエルさん、いやPerfect Engelsによる人類が犯した罪についての論告が始まります。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加