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孤立無援! 味方を作ります!!
「人間の罪は多い。しかしその最たるものは戦争、自然破壊、人種差別の三つです」
いずれも人類が抱える問題点と言っても良いでしょう。そこを突いて来るとはただのビジュアル系バンド信奉者ではないようです。
日本は平和で私の両親のみならず、おじいちゃんおばあちゃんですら戦後の生まれです。戦争を体験した人が少なると日本はまた戦争の道を歩むというようなことを主張する人もいるぐらいです。
ミカエルさんは戦争は人間の傲慢、憤怒から来るものであり、罪深いと主張します。
「というわけで人間が行う戦争というものが如何に愚かな行為であるかご理解いただけるでしょう!」
「ミカエル様ーーー!!!」
自信に満ちたその主張に傍聴席の天使たちが歓声を送ります。
「検察として戦争に関する論告は以上となります」
カーン!
「それでは次に弁護側は弁論を」
いきなり言われてもなかなか主張は難しいです。少し整理しなくては反論の糸口が見つかりません。それにまだ戦争に関してのみです。このような主張があと二つあると思うと少し気が遠くなります。
だいたい、この論点では戦争を肯定するような反論になります。そんな事が可能なのでしょうか?
「コウメちゃん、考えが纏まらないのなら少し休憩時間をもらうのはどうかしら?」
私の困っている表情を気付いたのか、弁財天さんがナイスなアイデアを提供してくれます。もちろん同意です。
「裁判長! 少し時間を下さい!」
早速、挙手をして裁判長である『神』に主張します。
「オホン! よろしい!!」
心なしか「裁判長」という呼びかけに照れているように感じますが、顔色を窺うことできないためよくわかりません。
一度、控室に戻り反論を考えることにしました。
「おい。逃げるなよ」
退室際にミカエルさんが意地悪を言ってきます。
「ミカエル様ーー!」
それに呼応するかのように傍聴席の天使が歓声を上げます。敵ながらその一体感は見事ですが、性格は少し悪いようです。クラスには一人はいる感じの優等生タイプです。このタイプは異性に好かれ、同性から嫌われるタイプですがミカエルさんは同性からも好かれています。見事なものです。
それにしても我々の味方になってくれて人(神)はいないでしょうか? 第1審もこのアウェイ感の中で行われていたとすると敗訴やむなしです。そもそも裁判は傍聴席からの盛り上がりで勝訴を勝ち取るわけではありませんが裁判長の心象が良くないのは確かです。(私の記憶ですと裁判では歓声などはないはずです。神様の裁判は少し勝手が違うようです)
そうこうしている内に今度は寿老人さんが傍聴席にいる天使たちから売られたケンカを買いそうになったので慌てて布袋尊さんが袖を引いて控室へと向かいます。おじいさんなのに元気が良いのは良い事ですが、これでは私のクラスの男子とあまり変わりがありません。
逆に布袋尊さんは服装容儀はだらしなく見えますが、その一つ一つはきっちりとしています。やはりギャップ萌え狙いなのでしょう。
こんなカオスな状態の中、私はまだリーダーらしいことをやれていませんが、ここは一度退くことにします。戦略的撤退というやつです。(言葉はかっこいいが意味はよく理解していません)
控室に到着すると皆がなんとなく疲れた顔をしています。リーダーらしく盛り上げる場面、到来です。
「みなさん、まだ始まったばかりです。気を取り直して頑張りましょう!」
私は空元気を出して励まします。しかし簡単には士気は上がりません。これは某戦国シミュレーションではないのでコマンド選択だけで士気が上がったり訓練度が上がったりはしないのです。
「今回もなかなか難しいですね。私は軍神なのであの手の主張には弱いですよ。ハハハ……」
毘沙門天さんは乾いた笑い(自虐ネタ)でこの場を更に暗くしてくれます。軍神だったら我々の士気を上げてもらいたいものです。一応、神様なのでツッコミはやめておきます。
まだ何もしていませんが行き詰まっています。
これが某裁判ゲームであればストーリー上に何かしらのヒントがあり、華麗なる逆転劇をキメることができるのですが現実は甘くありません。
しかし、私なりに分析はできています。まるで「帰りの会」における吊るし上げ裁判の様相を呈する神界の裁判において、問題点は二つ。反論の糸口、それから傍聴席に味方が少ないことです。
「帰りの会」では不思議とその日の悪行を皆の前に晒され、先生からの判決を待つという独特の雰囲気があります。
ここで勝つためには先生の心象を得ることも重要ですが、聴衆であるクラスメートの多くを味方にすることが必要です。
これはもはや議題となる論点の内容というよりは日頃の行いがものを言います。(帰りの会で議題になるのは「〇〇くんが昨日掃除をサボりました」とかそういうものです。この議題が既に男女の確執を表現したものになっているところがポイントです)
「あの……傍聴席に我々の味方はいないのですか? Perfect Engelsには味方の天使たちが大勢いるみたいなのですが……」
「天使たちは一大勢力だからねぇ。それに見た通りの強火な子たちが多い。我々に味方してくれそうなのはインドの神々かなぁ……我もインド出身みたいなところもあるし」
大黒天さんがハイレベルのカミングアウトをかましてきます。
「本地垂迹説」というものがあり、その辺の絡みであるらしいですが、正直、小学生の常識ではわからなかったので私の中では「大黒天さんにはインド人(神)の友達がいる」ということで整理しました。
ん? これは凄く大事な話ではないでしょうか? つまりインド人(神)は我々の味方なのです。これを引き込まない手はありません。
それはそれとして日本の神様たちはどうしたのでしょうか?
「あ! それは神様常識だからコウメちゃんがこっそり教えます! 他の神様に訊くと人間ってバレちゃうかもだからね。バレると豚さん……」
ぐっすり眠ってすっきりしたコウメちゃんが神様常識をレクチャーしてくれます。(豚さんの件は必要ありません)
今の季節は夏。夏と言えば夏祭り。そうです。日本の神様は夏祭りという神事に参加しているため神界ではなく、地上にいるのです。
チーム七福神はお正月が活動のメインなので夏は時間があります。(暇という意味ではありません)
というわけで、時期的な特性がもの凄いアウェイ感を演出してしまったわけです。この時期を選ぶあたりもPerfect Engelsの実力の高さが窺えます。
いや、優等生的な考えを排して、正直に言います。Perfect Engelsはセコいのです。フルタ製菓のセコイヤ(ア)チョコレートです。学年に一人はいる狡猾で計算高いカースト高めの女子といったところでしょうか。このタイプは往々にしていじめっ子の代表格のくせに成績や容姿が良いため先生やクラスの男子からも一目置かれています。敵に回すと厄介な女子なのです。
私はリーダーらしく大黒天さんに指示を出します。
内容は当然インド神を味方につけることです。大黒天さんは二つ返事で了解し、恵比寿天さんと一緒に出発します。
恵比寿天さんは生粋の日本の神様です。おそらく姿が似ているので手分けするつもりなのでしょう。その後ろ姿はほぼ双子です。(違いは持っているものぐらいでしょうか。釣り竿は目立つアイテムです)
問題点の一つはこれで解決。もう一つ。こちらの方が難問です。そうです。どのような方向性をもって反論するか、です。
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