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俺は、義村に斬られた己の首を見つめていた。降り積もる寒い雪の中、幼子の俺は、もはや一人の力では一歩も動くことができずにいた。
「ととさま、ととさま。」
最後に会ったおぼろげな父頼家の姿を思い出しながら、俺は必死で父を呼んだ。そこに、父は、怒った顔で現れて、俺に言った。
「一人で立ち上がれぬ軟弱者は、勝手に朽ち果ててしまえ!」
俺は、寂しくて、悲しくて、ただただ泣きじゃくったが、父は決して俺を抱きしめてはくれなかった。
「可愛い我が子に、心にもないことをおっしゃいますな、兄上。」
その時、俺のよく知る大好きな優しい叔父が現れた。
「寒かったであろう。」
そう言って、叔父は、俺の手を握って、俺を抱き上げた。
「お前は、よい子だよ、善哉。」
実朝叔父上は、幼子の俺を抱き上げたまま、そっと父の方に俺を手渡そうとした。父は、不貞腐れたような顔で、叔父上から俺を抱き上げた。
俺が気づかないだけだった。いつだって、俺の側には、温かい仏のまなざしと腕があったのだった。
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