成長、その先はどこへ行くの

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成長、その先はどこへ行くの

 崩れ落ちてしまった街、その姿を元に戻すことは僕らには出来ない。ただ少しでも笑い合っていた街の人々の姿が戻るように、僕らは街の復興作業をしていた。  一人の女性の土化から始まった悲劇だったが、僕の胸の中には大きな疑問が残っていた。それは至って簡単なことだ。  ここはレイたちピッカーが拠点にしていた街。少女の母親があんなことになる前に気づくことが出来たはずだ。そもそも街の人が土化することだってないはず。なのにどうしてあんなことが起きたのか、僕には解せない。  「そんな、私のママは助けてくれないの」 少女はあのときそう言った。それは少女がピッカーの活動を知っているということではないのか。そう考えると、街の人達との交流も全く無かったとは考えにくい。 (やはり土化は防げたはずだ) 僕は心の中で答えの出ない思考を巡らせ続けていた。ボロボロになった建物を片付け、簡易的な家をいくつか建てる。驚くほど静かになった街に時々響く残された人の泣き声は、この街に起こった出来事の全て語るようだった。僕はその声に背中を押されるように、レイに尋ねた。 「街の人の悲しみの花は摘んでこなかったのか」 レイは作業の手を止め、僕とは目を合わせないまま答えた。 「摘んできたよ、たくさん――。だから正直分からないんだ、どうして土化してしまったのか」 僕はその答えを予想していたのか、それとも全く予想していなかったのか、レイの声を聞いて分からなくなってしまった。そこには一つも嘘がなく、彼女の優しさが言葉に咲くようで美しかった。だから僕はそれ以上彼女に尋ねることをやめた。これ以上は彼女に対してあまりに残酷だと、そう思ったのだ。だが次の瞬間に、僕の気持ちは簡単に踏みにじられた。 「お前たち、どの面下げてここにいる」 聞こえてきたのは街の人の声。遠くはなれた場所から何人も集まって叫んでいる。 「この街から出ていけ――」 掠れたその声には憎しみが色濃く溢れ出していた。街の人達は僕らの手の届かないところにいる。 「全部お前たちのせいだ、この嘘つきどもが」 僕らに向けられた鋭い視線を、僕は助けたいと叫ぶことへの代償のようにも感じてしまった。だが、レイは一瞬だって叫ぶことを諦めなかった。 「守れなくてごめんなさい――。たくさんの人達を救えなかった、だから今度こそ私達に守らせてください」 レイは僕が思っている何倍も強い心を持っていたのだ。 「みなさんの悲しみの花を、私達に摘ませてください」 自分が泣くのは違うとでも言うように、レイは零れそうな涙を必死に我慢していた。その叫びに街の人達も表情を変え始めていたが、一人が声を上げるとたちまち不安は広がっていく。 「マカ嬢ちゃんの母親は、あんたらにもらった薬を飲んですぐに土化したんだ――。それなのに、またあんたらを信じるなんてできるわけないだろ」 広がる不安は街の人に留まらず、強く輝いていたレイの心にも届いてしまった。彼女の目からは光が消えかかり、その目の奥には今にも闇に飲み込まれそうな浅葱色が、ただ息をして揺れ動いていた。 「レイ――」 僕の声がレイの元へたどり着くより前に、クヒオがその光を必死で守るように叫んだ。 「どういうことだ、俺たちの薬は侵食を遅くする薬か、悲しみの花を摘んだ後の空洞を埋める薬だ。薬を飲んだのなら土化するはずがない」 だがその叫びもまた、簡単に掻き消される。 「そんなの私達が聞きたいわよ、あなた達を信じていたから薬を飲んでいたのに。私の旦那を返して――」 そうか、ここにいる人達の殆どが大切な人を失ったのか。僕はやっと、その痛みを自分事として捉え始めることが出来た。僕らの気持ちを簡単に踏みにじる言葉だと思っていた叫び声たちも、もう僕にはそう思えなくなった。だって始めに踏みにじってしまったのは、紛れもなく僕たちだから。  石や木の枝、壊れた家の破片が飛んでくる。でも僕らは誰もその痛みから逃げなかった。ちゃんと受け止めて血を流し、流れるように終わってしまったさっきまでの悲劇を思い返して、その心に刻んだ。
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