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ボクを助けてくれた英雄「コア」、リーフィエ王国の英雄だ。彼はボクの話を最後まで静かに聞いてから、彼に咲く淡い緑の花をその手で摘んでボクに植えた。
「君に咲いた負の花も僕には美しく見えるよ」
優しく微笑む彼の姿に、ボクはまた息が苦しくなって彼に尋ねた。
「ボクは醜いだろ、顔も声も――」
だけど彼はボクの手を優しく包み、どこまでも優しい言葉をボクにくれた。
「君の心はとても美しい。それだけで、君の顔も声も僕は可愛いと思うんだ」
こんなボクの心を美しいだなんて、この男は見る目がないなと思った。でも彼はそれすらも見抜いていたんだ。
「愛してほしいと思える心が、美しくないわけないんだよ」
まるでボクにだけこの優しさが向けられているような、そんな幸せがボクの心をいっぱいにした。そしてボクの胸元に幸せそうに咲いた花は、今までボクに咲いたどの花よりも綺麗だった。
「あの人はみんなの英雄なんだ。ボクもあの人に助けられた中の一人に過ぎない。あの人がボクの特別でも、ボクはあの人の特別じゃないんだよ」
自分で言ったくせに悲しくなって、きっとボクには涙のあとが残ってしまう。あの日、心から幸せを感じて咲いた花も、もうただの薬になってしまった。ボクだって今までそうしてきたのだ。顔も知らない誰かの幸せを私欲に使ってきた。そのせいで大勢が土になって、また負の花が増えてしまうのだな。
彼はボクだけの英雄ではなかった。それが分かってから、ボクは忘れられるのが怖くて、可愛くなろうと薬を開発しだした。自分に咲いている醜い負の花たちを摘むための薬を開発して、彼からもらった花は大切に取っておこうとした。そして色んな国を渡り歩いて薬ができた頃にレイたちと出会い、ボクはレイたちに力を貸した。研究所から出ずに研究を続ける日々の中で、彼に会いたいという感情が花を咲かせ、ボクはその花を取っておきたいと思った。そして開発したのが侵食を遅くする薬。レイは完成を喜んで街中に配っていったが、何度も使えば突然土化してしまうという副作用にボクはさっきの一件で初めて知った。だけど、そんな言い訳をするほどまでにボクの心は腐っていない。ボクが始めたことだ、ちゃんと自分で責任を取るさ。
ボクは花を飾っていたガラスのケースを割り、その破片で自分の胸を刺した。
「最後に一つだけ願うことが許されるのなら、ボクは彼の特別になりたい」
なんて小さく呟いた。
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