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知りたいこと
ウルが動かなくなってから、どれだけの時間が過ぎただろう。僕たちは各々思うところがあり、別行動を取っていた。僕は特に何もすることがなかったから街の復興作業を隠れてしていた。改めて見るとその光景は悲惨で、このまま放っておくなんてできないと感じた。それが「起こってしまったこと」だとしても、僕らには責任があると思ったからだ。
「あなたは優しい人ですね」
声に驚いて振り向くとホクケイがいた。
「そう言うホクケイだって、復興作業をしているじゃないか」
僕の言葉に彼は「そうですね」と微笑んで一緒にガラスの破片を拾っていた。
「あのとき――。ノアさんが来たときに私は何も出来ませんでした。申し訳ない」
彼は僕に謝っていたが、そこには少女や少女の母親への気持ちも感じて、僕はどう返せばいいのか分からなかった。だけど、僕にとって彼は僕なんかよりもずっと立派な人だ。泣いている少女を前に不安を感じさせない言葉で安心させたり、その整った身なりも相まって僕から見れば貴族のようだった。
「ホクケイはとても紳士的な人だよ。僕から見れば羨ましいや」
独り言のようにこぼした僕の言葉に、彼は少し嬉しそうな顔をしていた。
「私は貴族に憧れているのです。品行方正で美しくて、一つも負の花が咲いていないその姿がかっこいいと思ったのです。だからこうして着飾っているのですよ」
少し冗談っぽく笑いながら話していたが、きっとその言葉に嘘はないのだろうと感じた。だが、僕の知っている貴族は品行方正とは程遠かった。彼が見たのは本当に貴族なのか、僕には少しの疑問が残った。
「そこらの貴族より君のほうがよっぽどかっこいいよ」
僕もまた、彼のように笑いながらそう言ったが、彼は僕の想像より遥かに嬉しそうでなんだか僕まで照れてしまった。
「私は昔、花だらけの自分のことを恥じていたのです。嫌って嫌って、花をただ切り取って、感情を無にしようと思いました」
傷だらけのその身体から、彼の痛みに溢れた過去が見えてしまいそうだった。
「でも私は出会ったのです。幸せそうに輝く貴族であった、ある女性に」
今度は幸せそうに笑っていて、僕は少し安心した。優しく微笑みかける笑顔が、彼にはよく似合っている。
「ホクケイはその人に出会って変わったのか」
彼はまた嬉しそうに笑って、「そうですよ」と微笑んだ。
ホクケイと話しながら街に散らかったガラスや家の断片を片付けていたが、そこに街の人が来た。
「帰ってほしいって言ったのに」
その女性は少しの諦めが混じった表情でそう言ったが、僕らに石は投げなかった。ただ疲れたとでも言うようなその目に、僕はどうすることもできない。
「償いにもなりませんが、この街のこれからのために私達もこうしていたいのです。あなた方の苦しみも憎しみも、全て私達に向けてください。それは何も間違ったことではありません」
女性は彼の言葉を聞いて膝から倒れ込んだ。そして涙を流しながら謝った。
「ごめんなさい――。あなた達によくしてもらっていたのに、私たちは責めることしか出来なかった」
心からの叫びを聞いて、僕はピッカーのしてきたことは決して間違いではなかったのだと思えた。たくさんの人が傷を負うことになったことも事実だが、これまでピッカーが彼らを救ってきたこともまた、事実なのだ。
「あなた達には感謝してもしきれない。それなのに――」
泣き崩れる女性に、彼はやはり紳士だった。
「あなたが謝ることは何もない。私たちこそ、本当に申し訳ありませんでした。もし少しでも心を許してくださるのなら、これからも私たちに手助けをさせてはいただけませんか」
女性は彼の真っ直ぐな目に「はい」と一言残し、僕たちのもとを去った。そして街の人達のもとへ行ってみると、心なしかその目は心を許しているように見えた。
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