知りたいこと

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 翌日――  どこから伝わったのか王都からモルスの奴らが研究所へ来て、ウルの遺体を持っていこうとしていた。  とは、土にならずに花を枯らした人々の身体を王都から迎えに来る王都の機関で、騎士団の一種だ。騎士団の中でも特別な試験を合格した一握りの者しかなることが出来ないと言われている。全身真っ黒な服に真っ黒な顔を覆う布をつけ、髪も爪も全てが黒く、その姿はまさに死神のようだ。不気味で無機質な格好の彼らは喋り口調も単調で、まるで感情がないようにさえ思ってしまう。 「待ってください、まだ一日だって経っていないのに――」 昨日会って以来のレイの顔は、少しやつれたようだった。彼女の言う通り、僕たちはまだウルのことを完全に受け入れられたわけではない。こんなにも早く別れを突きつけられると、どうしたってそれを拒んでしまうのだ。 「どうしてここに来たのかしら、ウルが枯れたのはつい昨日のことなのよ」 僕も感じていた違和感にマナは声を上げた。するとモルスの一人が、まるで機械のように話し始めた。 「我々は残念ながら土になれず枯れてしまった人々を救済するべくお迎えにあがっているのです。故人を救いへ導くのはいずれも早いほうが良いでしょう」 あまりにも機械的なその話し方に、僕は今にも胸ぐらをつかみそうなほどの怒りを抱えていた。ウルはもう戻ってこないのだ――。それを一つの作業のように終わらせようとする奴らの態度が、僕は許せなかった。だがそれはみんなも同じだった。 「お前はそれでも人間か」 クヒオが冷たく言い放つと、モルスはまた機械のように答えた。 「いいえモルスです」 その答えに僕らは思わず動けなくなっていた。それは人間ではないと言っているのと同じことで、その言葉の意味を考えるほどに僕は奴らの姿が人間には見えなくなっていた。それはまさに死神だ。 「もうよろしいでしょうか。我々にはまだ任務があります」 王都の権力に逆らえず、僕らはウルの遺体が運ばれていくのを見ていることしか出来なかった。頭にこびりついた奴らの声が永遠に僕の頭の中で鳴っている。結局疑問は残ったまま、更に増えて胸につかえていた。 「運ばれた遺体はどうなるんだろうか」 僕が抱えきれなかった疑問を口からこぼすと、ホクケイが静かに言った。 「今は考えないほうが良いでしょう――」 僕は思わず固まった。その言葉の裏に、何もかもを知っているような彼の怒りが見えてしまったから。  「今は考えないほうが良い」 それは遺体についてだけではなく、彼の深くに燃えている怒りについてもそうであると感じ、僕はそれ以上話すことをやめた。  僕はやけに静かなウルの部屋に入り、散らかってしまった花やガラスの破片を片付けた。  「我々は残念ながら土になれず枯れてしまった人々を救済するべくお迎えにあがっているのです。故人を救いへ導くのはいずれも早いほうが良いでしょう」 奴らはそう言っていたが、僕はウルのことをそんな風には思わなかった。「土になれなかった」のではなく「土にならなかった」のだ。薬の副作用を知っていたウルにとって土化することは容易だったはずだ。それでも、あのガラスの破片で自分の胸を刺したということは、土になることを拒んだのではないだろうか。それがなぜかはまだ分からないが、なんとなくそんな気がしていた。  知りたいことがたくさんある。言い換えれば、知らなければいけないことがたくさんある。それを知るためにもここで立ち止まることは出来ない。 「みんな、王都へ行こう」 王都へ行けばモルスのこともウルのことも、ホクケイのことだって分かるかもしれない。僕はそう信じて強く言葉にした。すると、みんなは思ったよりあっさり受け入れて、王都へ行くことが決まった。 「出発は一週間後、この街の復興作業に目処が立ったら私たちは王都へ向かおう」 レイが前の活気を取り戻したようで、僕は心が柔らかくなった。この行動が、レイにとってもみんなにとっても、良いものになるように。これまで降り掛かってきたたくさんの辛い出来事たちが、これから誰かの幸せを咲かせる種となるように――。僕は心の中でそう願いながら眠りについた。
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