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幸せの花を摘む――。その言葉を聞いて、僕はウルの言っていたことを思い出した。
「人の花から作るのさ、幸せの花から」
騎士団の摘花隊がなぜ幸せの花を摘むのか、その理由が分かってしまいそうな僕は思わず怒りを声にしていた。
「僕が摘花隊に潜る」
するとホクケイが「私も同行させていただきたい」と言い、あとはみんな黙っていた。
「いいんじゃないの、それぞれ別行動で情報を集めるのは効率的だ」
キアヌさんはただ一人ニヤけながらそう言うが、レイはどこか暗い顔をしていた。それを見たクヒオが、静かに言った。
「情報を集めることはいいとして、その先、俺たちはどうするんだ」
その通りだ。目先の知りたいという気持ちで動いていたが、その後どうしたいのかなんて考えていなかった。僕らはピッカー、悲しみの花を摘み幸せの花を咲かせてほしいと願って活動しているんだ。知った先で、僕らは行動しなければならない。
「たたかう。花は私たちの感情だって、大切にしなければいけないんだって、私たちがちゃんとたたかおう」
悲しみも怒りも後悔も、全部一人で背負ってしまっているようなレイの瞳は真っ直ぐに光り、僕はその華奢な身体の力強さを感じた。
「私たちでたたかうのよ、もう誰もいなくなったりしないように――」
マナが力強くそう言い直し、僕らは仲間であると僕は心に置き直した。それはここにいる僕らだけではない。泣きながらも強く生きるマカちゃんも、もう会うことは出来ないウルも、ちゃんとこれからも僕らの仲間だ。僕らの空気の変化に、キアヌさんは嬉しそうに手を叩いて大きな声を出した。
「最高だな、君たち」
そして机を一度強く叩いた。
「護衛隊には私とクヒオで行こう、少し伝手があるんだ」
「でしたら、私とレイは王都の観光がてら情報を集めましょう」
マナはレイの元へ近づきながらそう言った。騎士団の二部隊へ潜入するが、肝心のモルスに近づくのはやはり難しいのか。
「そういえば、来る途中でモルスの試験について少し小耳にはさんだ」
キアヌさんが何か知っているかもしれないと期待した僕は、確実ではなかったがその話をした。
「去年は二人だけだったって」
すると、キアヌさんは少し驚いたような顔で答えた。
「あんな試験じゃ仕方ないさ、私はこっちから願い下げだけどね」
「どんな試験なんですか」
僕がそう言うと、キアヌさんは「言ってないのかクヒオ」と少し怪訝な面持ちになった。
「酷いもんさ、感情をなくす訓練をされるんだ」
「感情をなくす――」
「咲いている花は全て摘まれ、家族がいるものは家族を土にされ、花が咲く度に身体に傷をつけられる。そして、最終試験で花を一つも咲かせることがなければモルスになれるんだ」
「なんだそれ」
僕には到底理解できなかった。そこまでのことをしなくてはならない理由も、そんなことをされると分かっているのにモルスになろうとする人のことも。理解できないことほど恐ろしいものはない。
「そんなところに正面から入るのは無理だろう。まずは他の部隊から情報を集めて、モルスとも関わりを持っていけばいい」
キアヌさんの言う通り、正面からモルスに入るということは感情を失うということ。僕らはそれを許容してはいけないと思った。なぜなら、僕らは花は感情であることをみんなに伝え、人々を救おうとしているのだから。
「私は手続き取ってくるから、明日からの活動に備えて早く寝るといい」
キアヌさんに言われるまま、僕らは用意してもらったご飯を食べ、眠りについた。各々の胸に決意を抱えて――。
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