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僕の生まれは貧乏な街の貧乏な家だった。父さんは僕が生まれてすぐに家を出て、母さんはその後花に蝕まれおかしくなった。街の人達は、母さんが花に蝕まれたと分かるとすぐに家を訪ねてきて母さんを燃やした。いや、あれは既に母さんではなかったのかもしれない。言葉も発さず食べることも何もせず、ただ涙を流し続けていた。でも僕にはやっぱり母さんに見えて、燃やされる母さんを必死に助けようとした。それが悪かったんだ。街の人達は僕をおかしなやつだと、僕にも火をつけようとした。僕は顔の右側と右腕を火傷し、それから逃げるように街を出た。
僕たちの身体には花が咲く。それは深く大きい感情が生まれると同時に咲いて、喜びなどの良い感情の時には咲くときに心身を癒やし、悲しみなどの負の感情の時には少しづつ身体を蝕んでいく。だがこの花たちが自然に枯れ落ちることはなく、そして大抵の人が花を摘むことを拒み、特に負の花を摘むことは嫌がる。それは恐らく、咲いたその瞬間に侵食が始まっているからだろう。そして、花に完全に蝕まれた人間は自我を失い、涙を流し続け自分の花を他人に植えかえていく。花を植えられた人間は侵食が早まり、やがて同じ道を辿っていく。花が全てなくなると、その人間は土となって消える。
これがこの世界の仕組みであり、誰にとっても当たり前のことだった。そう、僕にとっても。でも僕は出会ったんだ。「レイ」という女の子に。
街を出てから数日経ったある日、よろける僕の目の前に綺麗な女の子が立っていた。
「君、花の侵食が早いな。もしかして身近な人が完全に蝕まれたりしたのか。このままでは君も――」
彼女は喋ることをやめ、自分の服をめくりだした。
「少し待っていて、すぐに楽になるから」
すると彼女は腹のあたりに咲いている桃色の花を、手のひら程度の大きさのハサミで切り取り、僕の背中に植え付けた。
「どうかな、これで少しは楽になったでしょう」
彼女の言う通り、僕の身体はすっかり楽になっていた。まるで喜びの花が咲いたときのように。そして彼女は先程の白いハサミを腰掛けカバンにしまい、そこから今度は黒いハサミを取り出した。
「少し痛いと思うけど我慢してね」
そう一言僕に告げると、彼女は僕の身体に咲く紫の花たちをハサミで切り取っていった。
「やめろ、僕の花に触るな」
僕の意思とは違うところから、勝手に声が出ていた。
「大丈夫、これは君を蝕む悪い花」
それから、傷口から流れる血を止血し包帯や絆創膏を貼ってくれた。僕は彼女の花のおかげか身体が楽になっていて、すっかり自分の力で立っていられた。
「...ありがとう、君は一体――」
僕が問いかけようとした途端に、彼女は遮るように話し始めた。
「私はレイ。とりあえずお腹空いているでしょう、私の研究所に来て」
普通こんな怪しい誘いにはのらないのだけど、彼女は僕を助けてくれた恩人で、今僕はすごくお腹が空いているので。言われるままに彼女についていった。
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