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どれくらい経っただろうか。目覚めるとふかふかのベッドの上にいて、それにもたれかかるようにウルが眠っていた。ボサボサの髪から覗いて見える顔はとても美しくて、僕は少し緊張していた。
「んあ、起きたのか、気分はどう」
ウルは目をこすりながら立ち上がってそう言った。
「大丈夫だよ」
すると突然、走って別の部屋に行ったかと思うとペンと紙を持ってすぐに戻ってきて何かを書き出した。
「副作用は気絶するほどの眠気、だが被験者の心身の疲労が最高点だったことを考慮すると、眠気の度合いについてはもう少し検証が必要か――」
止まりそうにない勢いでブツブツ唱えながらペンを走らせるウルを見ていると、扉からマナが入ってきた。
「その、さっきは悪かったわね。あなたの事情も知らずに傷を触って」
まさか謝られるとは思っていなかった僕は、開いた口がふさがらなかった。
「何よ、人が真面目に謝罪しているのになんて顔しているのよ」
「いや、ごめん。それとありがとう」
マナは予想外とでも言うように驚いた顔をしてから、ふんっ、と鼻を鳴らして微笑んだ。
「あなたのお母様のことだけど、あなたが気に病む必要は全く無いわ」
「え――」
「お母様のこともあなたのことも私はあまり知らないけど、これだけは言えるわ。人は必ず終りを迎えるの。それがどんなに辛い終わり方だったとしても終わってしまうの。あなたがそれに囚われて生きていく必要はないのよ」
最初に感じた恐ろしい力の気配をこのときは感じなかった。それどころか、どこか憂いを帯びた彼女の優しさはまっすぐで、僕には救いとなっていた。
「うん、そうするよ。生きていかないとだもんな」
僕にとって新たな始まりをきるために、僕は自分に言い聞かせるようにそう言った。
「そんな、私のママは助けてくれないの」
下の階から泣き声が聞こえて僕とマナが急いで下に向かうと、そこには知らない女の子がいた。その子はウルより小さい女の子で、枯れた花をたくさん抱えて泣いていた。
「その子はどなた」
マナが尋ねると、レイは苦しそうな顔をして言った。
「お母さんが土化して、助けてほしいって――」
僕にはこのとき、どうして今すぐにでも飛び出していかないのか、助けに行かないのか分からなかった。だから僕は、僕の言った言葉に返したクヒオの言葉に衝撃を受けた。
「どうしてそんな顔しているの、助けに行かないの」
「助けられないんだよ」
ふざけているわけではない、そんなことは考えずとも分かった。至って真剣に、クヒオは女の子の前ではっきりと言葉にした。
「助けられない」と。
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