バーチャルスクールへ行こう

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 リュウとは、相談して同じ授業を選択することもあった。 「今日の午後は何の授業を受ける?」  いつものようにしゃべり場でリュウが話しかけてきた。現実の僕は、パソコンの前でカップラーメンを食べながら、チャットを打ち込む。 「5時間目は社会、6時間目は美術を受けるよ」 「そっかー、じゃあ、俺は6時間目はパスして、5時間目の社会だけ受けようかな」 「うん。一緒に受けよう」  話が終わるとほぼ同時に予鈴が鳴った。僕たちは授業に遅れないように、しゃべり場から社会科教室に移動した。 「日本では電力量のほぼ8割は火力発電によってまかなわれています」  粕谷先生の声が響く。パソコンの画面には、日本の電源別発電電力量の割合を示したグラフがでかでかと映し出された。 「一方で、フランスでは、原子力発電の割合が67%、カナダでは水力発電の割合が60%といったように、国によって全然違うんですね」 画面が切り替わり、国別のデータが提示される。 「これを踏まえたうえで、次回の授業ではディベートを行います。メリットとデメリットを考え、これから日本が進めていくとよいと思われる発電方法を一つ選んで、それぞれの立場で討論会してもらいます。もちろん、複数の方法を組み合わせたいという人もいると思いますが、あくまで議論を進めるためにも、今回は一つだけに絞ってください。」  柏谷先生の言葉に、僕は複雑な思いになった。くしくも、次回の課題に取り組むことは、僕にとって打ち消したい過去と向き合うことに等しかった。それでも、絶対に次回の授業にも参加しようと僕は静かに決意を固めた。  その夜、いつも帰りの遅い父親と話すため、久しぶりに自室からリビングに降りた。 「父さん、ちょっといい?」 父親は少し驚いた表情を見せた後、「あぁ」と頷いた。息子が席につくのをゆっくりと待つ顔は、心なしか嬉しそうに見えた。
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