バーチャルスクールへ行こう

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 ズキズキと脈打つような頭の痛みで目が覚める。部屋は蒸し風呂のように暑く、背中にはびっしょりと汗をかいていた。臭いのこもった薄暗い室内の空気は相変わらず淀んでいて、一切の光を遮断したカーテンが重くぶら下がっている。  起き上がったって仕方がない。僕は頭を深く枕に沈み込ませ、横になったままスマートフォンの画面を開いた。毎日何時間もやっているソーシャルゲームはもはや作業と化していた。課金をしても満足できないのに、これしかやることがない。  ブルーライトの光に目が霞む。指がうまく動かなくて、久しぶりに一対一のバトルでコテンパンにやられてしまった。耳鳴りがする。僕は「くそっ」とスマートフォンを布団に投げつけた。本当につまらない人生だ。    どれくらいの時間、ぼーっとしていただろうか。下の階から物音が聞こえてきた。来るな。来るな。階段をゆっくりと登る母親の足音。今日は一際、気分が悪い。母親がどのタイミングでドアをノックするかも、僕はうんざりするほどわかっている。 「(みのる)、起きてる?」 心の中のカウントダウンとノックの音がぴったりと一致した。 「…起きてるよ」 無視をするのは簡単だったが、ただでさえ哀れな母親を、これ以上傷つける勇気はなかった。 「お昼ご飯いる?」 母親の問いかけから、初めて今のだいたいの時刻を悟った。 「いらない」  食欲はなかった。ここんとこずっとだ。不登校になってから一年。学校に行かぬまま、中学二年になった。今頃世間では、夏休みが明ける頃だろうか。いらだち。焦り。虚脱感。色んな感情が交互に波のように襲ってきては、徐々に心が磨耗していった。  いつもだったら「わかった」と言って、すぐに部屋を立ち去る母親が、息を凝らしてドアの前に佇む気配がする。なぜだろう。 「これ、気が向いたら見てね」 ちょっとだけいつもと違う動き。階段を降りていく足音。僕は鉛のような身体を起こし、扉を数センチ、そっと開ける。床に一枚のチラシがぽつんと置かれていた。 「バーチャルスクールへ行こう!」  未来的な幾何学模様のデザインとポップ体の文字が目に飛び込んでくる。心臓がとくんと音を立てた。僕は紙を凝視したまま、立ちすくむ。時間とともに、全身を血が勢いよく駆け巡っていくのを感じた。
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