なんでアイツの体に…?

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 「…はい。私を…?」  母さんの目は真っ赤だった。  顔の半分しか見えなかったけど、ずっと泣いていたのがわかる。  …なんで泣いてんの?  この男の人は誰?  「…えっと、確か、橘君…だよね?」  私のことを見ながら、困惑した表情を見せる。  「橘君」って、私のこと言ってんの?  さっきから何?  大体、ここは…?  自分が病院にいることは、なんとなくわかってきた。  電車事故があって、周りが騒然としてる。  でも記憶がないんだ。  何があったのかは知らないけど、大変なことが起こってる…感じ…?  …でも、…そうだよね  “電車事故”って…  「安藤さん。お久しぶりです」  「いえいえ、こちらこそ」  男の人とお母さんが、会釈する。  久しぶりに会ったような感じで、挨拶を交わしてた。  知り合いなの…?  「母さん…?」  「母…さん?」  2人とも、びっくりした顔で見てきた。  …いや、そんな顔されても…  「橘君。三夏と一緒に電車に乗ってたの?」  「…は?」  「…いや、ほら、三夏からよく聞いてたから」  私から、…聞いてた?  『橘』  その苗字が、妙に引っかかる。  そうだ。  アイツの名前だ。  橘、祐輔…  久しぶりに聞いた。  中学以来だっけ  もうずっと、会ってなかった。  連絡も取ってなかった。  「祐輔…?」  「何か思い出したのか…?」  「…あ、はい。祐輔のお父さん…ですよね?」  思い出した。  どっかで見覚えがあるなと思った。  親父さんだ。  祐輔は「オヤジ!」って呼んでた。  漁師さんだから、家にはいつもいなかったんだ。  だから、時々しか顔を見ることがなくて…  「何言ってんだお前」  「…あれ、人違いでしたっけ…?」  「…いや、そうじゃなくて、なんでそんなよそよそしいんだ?」  そりゃ、赤の他人だし…  よそよそしいのはそっちじゃない?  母さん、なんでこの人が私のところに?  あっちで何してたの?
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