Sweet pain : 詩集売りの彼女

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僕がまだ東京の東中野に住んでいたころの話です。 当時は、その気になれば歩いてでも行ける新宿をよく訪れていました。 代々木の音楽専門学校に通っていたので、その通り道にあたるということでも、非常になじみのある街でした。 とある週末の夜、酒に酔った大人や学生たちが家路につくころ、僕は新宿駅構内のとある柱の袂でしゃがみこんでいる女性を見ました。 床に白い冊子をいくつか積み上げていたので、何かを通行人に売ろうとしているのはひと目見て分かりました。 白いワイシャツに真っ赤な鞄を肩から掛けて、彼女はじっとしていました。 一人で歩いていた僕はそばへ寄ってみましたが、彼女は僕が正面に立つまで目を上げようとしませんでした。
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