第二話:突然のLINE

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第二話:突然のLINE

 それから照山は『BE MY BABY』を何度もリピートして聴いていた。と、その時彼はズボンのポケットに入れていたスマホが震えていることに気づいた。照山はスマホを取り出してそれがLINEのメッセージの通知であることを確認して、邪魔だとばかりにスマホを投げようとしたのだが、その時送信者の名前を見て手を止めた。彼は恐る恐るLINEを開いた。 『美月です。照山君、突然のLINEごめんなさい。私が番組でお世話になっている音楽プロデューサーの小松さんの所から来ました。小林さんのことは照山君も知ってますよね。さっきTV局で照山君すごい怒ってたから、申し訳なくなってそれで一言謝りたいって思ってLINEしました。やっぱりさっき知ったかぶってRain dropsのことを喋りすぎたのがいけなかったのかな?でも私インディーズ時代からずっとRain drops好きだったし、みんなにもRain dropsの素晴らしさを知ってもらいたいって思ってつい長く喋っちゃったんです。決してロック好きの自分をアピールしたかったわけじゃありません。でもやっぱり許してくれないかな?だって私俳優だし。いわゆる芸能界の人間だし。照山君は芸能界の人間なんて嫌いでしょ?そんな人間にいけしゃあしゃあと自分たちの音楽を語られたくないよね。だって照山君は純粋な少年の心でロックを演ってる人なんだから。長々と語ってごめんなさい!自分でも何書いてるかわからなくなりました。私のことはブロックしてもらって構いません。だけどブロックされたからって私のRain dropsに対する気持ちは永遠に変わりません。今日出会えて本当に嬉しかったです。いつまでも素敵な音楽作ってください。美月玲奈』  照山は美月のメッセージを読み終えるとすぐさま美月に返信した。自分がメッセージを送るか、彼女がリンクを外さないかの競争であった。照山は美月に対して簡潔すぎるほど簡潔に『それは誤解だ!僕は君の言葉が嬉しかっただけなんだ!』とだけ書いた。返信を書き終わると彼はスマホを抱きしめて悶え狂った。ああ!この子はなんていい子なんだ。あんな無様な僕を見て自分のせいだと気を病んでいたなんて!照山は美月に対してこれまでの自分の偏見を全て謝罪したかった。全く自分はなんて浅はかな人間だろう。俳優のことなんてろくに知りもしないのに軽蔑したりして!  彼は何度もLINEを見て美月の返信を待った。待ちながら彼は自分のメッセージを確認してあまりにも言葉足らずだと追加で書こうとしたが、何度も書いたらストーカーみたいに思われるかもしれないと思って耐えた。長い沈黙が流れた。照山は髪が抜けてしまいそうになるほどの緊張感に耐えながらひたすら美月の返信を待った。  しばらくするとスマホの画面が明るくなった。美月の返信が来たのだ。彼女は照山に向けて『怒ってなくてよかったです。私Rain dropsのこと喋り終わってからずっと照山くんの機嫌を悪くしたかなって思ってたから。喜んでもらえて本当によかった。あの、照山君お願いがあるんだけどいいですか?暇な時でいいです。私とお話ししてください』とメッセージを書いていた。照山は読んで早速「大歓迎です。こちらこそ僕の話し相手になってください!」と返信した。  こうして照山と美月玲奈のLINEは始まった。最初は互いに遠慮がちで二言三言のやりとりだっがすぐに打ち解けて互いの好きなものを語り合うようになった。照山は美月とLINEのやり取りをしているうちに彼女が非常に知性のある女性であることを知った。この照山の同い年の人気女優はロックは勿論文学にも詳しく、特に文学方面では愛読書に照山が読んだ事もない作家の本をあげていた。彼女はLINEの終わりによくこんなメッセージを送ってきた。 『私、照山君とこういう事話せて嬉しいです。芸能界にはあまり文学や音楽について真面目に語れる人いないから』
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