#114『血と知の恵』

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「クソデカため息つきやがって。俺には散々明るく絡んできたくせになんなんだよ。」 どこからか声が聞こえて、ディクソンは咄嗟に上体を起こして周りを見回す。するとそこにはぼうっと立ち尽くしているアードラーがいた。 「何やってる…って言われてもね。なんとなく、みたいな感じ?」 「…嘘つけ。」 「嘘っていうか、そうとしか言えないんだよね。悲しいとか寂しいとかそうなんとなく思ってるだけ。ルドルフが悪いわけじゃないよ。本当に。悪いわけじゃない。むしろ教えてくれてよかった。」 「それでなんだよ。なんでずっと凹んでんだよ。」 「無力感──みたいな感じなのかな。」 「らしくないな。」 「本当だよね。」 困ったような笑みをディクソンが浮かべる。どこか諦めや無力感を感じさせるその笑みに、ディクソンの先ほどの言葉が本心であると物語っていた。 「ムカつく。」 アードラーが拳をぎゅっと握りしめて顔をしかめる。ディクソンはそれを認識して力なく笑って、俯いた。 「ごめん。」 「誰に何を謝ってんだよ。」 「……なんだろう。」 ぽりぽりとディクソンが顔を指先で掻く。何も言えないようだった。妙な沈黙がしばらく続いた後にアードラーがポツリとつぶやいた。 「馬にでも乗ったらスッキリすんじゃねーの。」 ぶっきらぼうで不器用であったが、彼の優しさはディクソンに伝わっていた。空元気と言われても仕方ないくらい突然ディクソンが立ち上がり、「乗ろっか!」と声をあげた。
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