#114『血と知の恵』

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サングが息をあげてやって来たのは、古い家の前であった。ツルは伸び放題。蜘蛛の巣は無数にある。明らかに人が住んでいるとは思えない。閑静な住宅街とは程遠い。家がポツンとそこに建っていた。広大な草原の中に、たった一つの古い家が建っていた。 「──あの、ここは?」 サングの隣にいたクリスティーナがそう声をかける。 「ここは──私の親友の家。とても魔法に長けていて、人付き合いが上手な人だった。」 「だった…?それってつまり──。」 「えぇ。もう、この世にはいないの。もう十年は経つかしら?」 「十年…。でも今になってどうして?」 「ふと思い出したのよ。ここを探していなかった、って。」 家に立ち入り、ダイニングや寝室に目もくれずにズンズンと迷いなく歩を進める。その様子にクリスティーナとレアルターレの二人は戸惑いながらも彼女に着いていく。サングが足を止めた。そこには扉がある。古くなって埃をかぶっている掛け看板。その埃を汚れることも顧みずに手でぬぐい払う。 「ルナ──。」 看板には『ルナとマリの部屋』と書かれていた。
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