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***
世界の壁を越えた途端、海をモチーフにした景色は一変していた。
ヘンゼルとグレーテルに出てきそうなお菓子の家。
そんな雰囲気の素材でできたクッキーワールドという世界。
クッキーで出来た地面に、綿菓子でできた雲、水飴でてきた海と川。そんな、メルヘンチックな世界に、僕とまんたは初めて降り立ったのだった。
クッキーワールドの住人達はどんな性格をしているのか?
まともに話は通じるのか?
いきなり殴りかかってくることはないか?
僕は正直ガチガチに緊張しながら、みんなのリーダーであるクッキー人形のショコラの下へ向かったのだが――。
「すみませんでしたああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
僕とまんた、共に唖然。
何故なら出会って早々、ショコラとその仲間たちにフライング土下座をされてしまったのだから。いやほんと、その流れるような動きといったら!クッキーやチョコが華やかに空を三回転四捻りして綺麗に土下座で着地したのである。そのスキル、一体どうやって磨いたんだろうか?
「そ、そ、そろそろウォーターワールドの皆さんからクレームが来る頃かなぁって正直思ってたんですううう!ていうか、ハニークリーム社の他のマスコットたちからも既に結構苦情貰ってまして!売れるためになりふり構わすぎだろって!ブラックジョーク多すぎるってええええ!」
「あ、自覚してたんだ……」
「でもでもでも、わかって下さい!他に生き残る方法なかったんですよ!そもそもぼくたちって、企画担当者が一週間徹夜してやっと捻り出したアイデアで!ここで却下されたらもう終わるなってかんじで!!」
「一週間徹夜!?死ぬよ!?え、ていうかハニークリーム社ってそんなブラック企業だったん!?一番知りたくなかった衝撃の事実なんだけど!?」
「そんなブラック企業への恨みつらみが募って生まれたぼくらはもう、ブラックジョークやるくらいしか活路がなく……」
「夢も希望もないな!?」
どうしよう。なんだか、聞いているだけで悲しくなってくるのたが。
ぼくはまんたと顔を見合わせた。この様子。ブラックジョークネタをやめろと言える雰囲気ではない。ていうかみんな目が血走ってて大変怖い。でも、ウォーターワールドの人気か落ちている現実からして、ここで引き下がるわけにもいかないわけで。
「……どうする、ルカ」
まんたが切なそうな目で言った。
「まんたが彼らを虐殺した方が救いがあるような気もしてきたんだけど」
「……それもヤメて」
仕方ない。僕は、唯一思いついたアイデアを伝えることにしたのだった。
「じゃあ、もうこういうのはどう?……正直これも、ギリギリのネタなんだけど……」
一ヶ月後。
ハニークリーム社は、コラボ企画を打ち出した。
その名もずばり、“ウォーターワールドVSクッキーワールド戦争!”である。
魚とお菓子、人に食われずに生き残れるのはどっちだ!?というなんともダーティなコラボであったが、これが人間達に存外受けてしまったのだった。
ウォーターワールドは生き残った。
生き残ったはいいが、ちょっとだけ切ない。
――こんなブラックネタが受けるって……人間達も結構病んでない?
残念ながら僕らの声は、彼らにけして届くことなどないわけだったが。
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