6:友達と友達

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6:友達と友達

◇◆◇  カリカリカリカリ。  それまでは、毎日毎日同じような事をウィップに報告していた僕だったけれど、ケインと会ってからは一頁を埋めてしまうのがアッという間になりました。どのページにも、ぜーんぶケインの事が書いてあります。 「ふぅ」  パラパラとウィップを捲ると、ケインと出会ってから、日記の文字がギュッと小さくなっているのが分かります。だって、そうしないと全然書きたい事が入りきらないんです。本当は次のページに行けばいいんですけど、なんだかギュッと書いている方が「楽しい事がいっぱい」という感じがして、とても嬉しい気持ちになるので、敢えてそうしています。僕の「こだわり」です! 「いち、に、さん……」  一枚ずつウィップを捲り、ケインと出会ってからこれまでを振り返っていると、部屋の扉が「コンコン」と叩かれました。その直後「ラティ殿下、参りました」と、ちょっぴり堅苦しいケインの声。そう、部屋の外には部屋守の兵が居ます。だから、ケインの声も喋り方も、ちゃんと弁えた話し方になるのです。  ふふ、ちょっとおかしい。 「どうぞ!」  僕もちゃんと弁えてますよ、という口調で部屋に向かって声をかけます。すると、扉の向こうから、ペコリと頭を下げてケインが現れました。扉の向こうには部屋守の兵士が居ます。 「ケインは僕の言いつけで参りました!通してください!」  すると、部屋守の兵も小さく微笑みながら「分かりました」と部屋の向こうから扉を閉めてくれました。もう、これもいつもの事です。 「ケイン!」 「ラティ」  僕とケインは二人きりになると、「主従」から「友」になります。 「ラティ、今日はどうしたんだよ?こんなに遅くに呼び出したりなんかしてさ」  他の人の前だと、とっても丁寧な言葉で話すケインですが、二人きりになると、ちょっと乱暴な男の子っぽい話し方になります。最初は、見た目と合ってなくてちょっとびっくりしたけど、もう慣れました。  逆に今では、さっきみたいに丁寧に話しているケインを見ていると「ふふっ」と思わず笑ってしまいそうになる程です。授業中にペンを回す僕に、「ラティ殿下?お行儀が悪いですよ?」なんて澄ました顔で言ってくるケインに、僕は笑いを堪えるのが大変なんですから。  あぁ、気を付けないと。パイチェ先生に「ニヤニヤしない!」と叱られてしまいます。ま、先生は今ここには居ませんから“知る由もない”んですけど! 「ケイン、こっちに来て!」 「あー?」  僕はケインの手をギュッと握りしめると、いつも二人で腰かける小さなソファへと向かいました。僕専用のそのソファは、一人だと大きいのですが、二人で並ぶと狭く感じます。でも、それが素敵です。  そんな僕に、ケインは呆れた顔で言います。 「ったく、今日もパイチェ先生に覚えてないって叱られてただろ。復習はしたのか?最近ずっとオレが教えてやるのを待ってるだろ」 「だって、ケインが話しかけてくれるの嬉しいから」 「……はぁ、もう。ラティ。ちょっと離れろよ。暑い」  そう言って僕の体を押しやろうとするケインの顔は、少しだけ赤く、本当に暑そうでした。ちょっと窓を開けた方が良いかもしれません。 「ケイン、窓を開ける?ちょっと暑い?」 「あぁぁ、もう!別にいいよ。で、オレに何か用か」  ケインに尋ねられ、僕はハッとしました。そうでした、そうでした。今日は僕とケインにとって大切な日でした! 「今日は僕とケインの大切な日だよ!」 「大切な日?」 「そう!」  「何かあったか?」と首を傾げるケインに、僕はソファの前の机に準備していたウィップを手に取りました。 「今日はケインと僕が友達になって“ひと月の記念日”だよ!」  そうなのです。今日はケインと僕が出会ってひと月の記念すべき日です。そんな僕にケインは「へぇ」と、興味がなさそうな返事をしてきました。まぁ、予想通りです。ちょっと残念ですが、それはそれで、とれもケインらしい返事だと思います。 「ふふっ」 「さっきからニヤニヤして。何なんだよ、ラティ」 「ううん!」  僕は自分の頭の中にうかんだ「ケインらしい」という言葉に、とってもうれしくなりました。だって、そう思えるのは僕が「ケイン」をよーく知っているという証拠ですから。だから、ケインにも僕の事をよーく知って貰いたいのです。 「あのね、今日は特別にケインに紹介したい人が居るんだー!」 「えっ?」  僕の「紹介したい人」という言葉に、ケインが慌てて僕の部屋を見渡しました。あぁ、そうでした。僕達が「友達」になれるのは、周りに誰も居ない時だけ。だから「紹介したい人が居る」と聞いたケインが、他に人が居ないかを気にするのは当然の事です。 「ケインに紹介したいのはねー、この子!」  じゃーんと、ケインの前に差し出したのは一冊の日記帳。  そう、今日はケインに僕の大切な、もう一人のお友達「ウィップ」を紹介しようと思い、夕食の後に呼び出したのです。 「この子……?」
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